long/温かな光
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王都に到着すると、団長は馬車から降り、わたしに手を差し出した。
「えっ、あの」
「レディーファーストだよ」
と微笑む団長の手を取らせてもらい、わたしも馬車から降りる。
そこに広がっていた光景は、想像していたものよりはるかに穏やかなものだった。
花が咲き乱れ、行き交う人々は笑みを絶やさない。
「わぁ…」
「さぁナマエ、用事を済ませてしまおう」
「はい!」
用事の後、この街を散策できるのかと思うとたまらなく楽しみで、わたしは満面の笑みを浮かべていた。
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どうやら深く理解してはいなかったが(わたしなんぞが首を突っ込まなくてもいいと思い…)、今回の仕事は商人との取引のようだった。つまりは、調査兵団への資金繰り。
ふくよかな体格でキラキラ光る石を身に纏うその商人は、ワインを片手に団長と話を進めていく。
「ナマエ、グリーンのファイルを」
「はい」
わたしは団長の背後で、指示された通りの書類を鞄から出したりしまったり。
そのうち、商談も成立したようで、二人の会話は他愛のない世間話となった。
そして、商人はわたしに席を外すよう命じた。
「少しエルヴィンと二人きりで話がしたいのだ。すまないねぇ」
と商人は言い、わたしはその部屋をあとにする。
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そのお屋敷は豪華なものだった。広い廊下、高い天井、きらびやかなシャンデリア。そこは正に、安寧そのものだった。
内地とはこうも穏やかなものなのだろうかと、関心の吐息を漏らす。
(だけどこの安定した生活だって、調査兵団のおかげなんだからね)
と、リヴァイの顔を思い出した。
彼は今頃どうしているだろう。いつも待つ役のわたしが、今回は彼を待たせている。なんだかその事がくすぐったく思えた。
(帰ったら思いっきり甘えようかな)
「君、」
ふと現実に引き戻されたような感覚で振り返れば、そこには長身の青年が立っていた。
「調査兵団のエンブレムって事は、君は父とエルヴィンとの商談に付き添って来たんだね」
商人の息子のようだ。
「は、初めまして!調査兵団所属、ナマエ・ミョウジと申します!このたびは…」
「いいって、堅苦しい敬礼は」
と、その青年はわたしが心臓に当てている右手を握った。
「ナマエちゃんって言うんだ。退屈でしょ。ちょっと散歩でもしようよ」
「あ…ですが、わたしは団長が…」
「あの二人の話ならまだまだ長くなるからさ。ほら、こっちに」
「でも」
「ねぇナマエちゃん、あんまり強情だとさ、この商談、ぶち壊しになっちゃうよ」
青年の目の色が変わったのがわかった。
そしてわたしは、これから何が起こるのかを察してしまった。