long/温かな光

□6
1ページ/2ページ

大きな屋敷に、使用人がたくさんいた。

わたしは上質な生地で出来たワンピースを着て、上質なものを食べた。
そして上品に振る舞う事を教えられた。


司祭達が頻繁に出入りしていた。
彼らは壁の尊さを説いた。
壁は神聖なるもの。汚してはならない。

家庭教師の先生は、外の世界を教えてくれた。
巨人のはびこる世界、と。
それをわたしは、素直に恐ろしいと思い、先生は屋敷から出てはいけないよと言った。

出られるはずもないのに。


父は凛としていて、母は美しかった。
わたしは、自分にその血が繋がっていない事を知っていた。子を授かる事が難しかったらしい。
両親がなにも言わずとも、風のたよりで自然と耳に入る。


「ごきげんよう、お嬢様」


少女に貴婦人が会釈をする。


「調子はいかがですかな、お嬢様」


少女に紳士が帽子を脱ぐ。


自分では決められない運命の中で、わたしは確かにお嬢様だった。
なんの不満もなかった。

だけどわたしは、


「ここから連れ出してやる」


一人の青年にそう言われた。


「連れ出すって、どうやって…?」

「今すぐには無理でも」

「わたしはここで生きてもいい」

「放っておけるか、毎日そんな顔しといて」

「わたし、そんな変な顔してるの?」

「してる」

「えへへ」

「笑うな」

「だって、おかしいもの」

「は?」

「あなた誰なの?毎晩木登りしてわたしと窓でお喋りして。わたし、そういうお話を読んだ事があるの」

「めでたい奴だな」

「その男の子も…女の子を連れ出すの。そして夢の世界へ行くのよ」

「はは、」


彼は自嘲気味に笑った。


「俺は夢の世界へは連れていけないけどな」

「だけどそんな世界、どこにあるのかしら。どこかにあるのかしら」

「ここじゃねぇ事は確かだろ」

「どうしてそう思うの?」

「だから、お前がいつもそんな顔して…」


そして響いた大人達の声。


「侵入者がお嬢様の部屋に!」


慌てながら彼は言った。


「約束する、必ず連れ出してやるから」


ぐいと、引き寄せられて、口づけをされた。
これは確か、本で読んだ事がある。
そうだ。愛する人への想いの証。


「待ってろよ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ