short/温かな光
□Ich liebe dich...
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壁外から戻ってきても、リヴァイは体を休める事は無かった。
武器の点検、報告書、仲間の弔い、新たな班の編成…
わたしも手伝っているものの、次々と上がってくる書類の山に、一人では太刀打ちできなかった。
見越したエルヴィン団長がリヴァイに声を掛ける。
「リヴァイ、少しは休め」
「ナマエに代わりが勤まるなら休むがな」
「勤まりません…」
しょぼくれてるわたしにふん、と愛想のない視線を投げるリヴァイの肩に肘を置いて、ハンジがにやにやと私たちにも聞こえるように小さめの声で言う。
「でもさリヴァイ、その分部屋に帰ったら、ナマエに存分癒してもらえるんだろ」
「…黙ってろクソメガネ」
その光景に安堵しながら、わたしは亡くなった兵士の記録を続け、その家族への報告書を作成する。
…誰しも一人ではない。
家族、友達、恋人がいる。
いつか己の身に降りかかるかもしれない恐怖を、時々夢に見る。
「ナマエ」
リヴァイがわたしの名を呼んだ。
「え?」
「今日は少しだけ、帰りが遅くなる」
「うん、わかった。じゃあその分、わたしも少し残業してく」
「お前は帰ってろ」
「え?」
「命令だ」
リヴァイに『命令』されると逆らえない。
惚れた弱味なんだろうか…情けない。
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そして帰ってきたリヴァイの手には、花束が握られていた。
わたしはあまり花には詳しくないが、白く大きな花をベースに、ピンクや紫の愛らしい小さな花が束ねられている。
「……リヴァイ、どうしたの、それ」
「やる」
「わたしに?」
「他に誰がいるんだ」
淡い黄緑色の包装紙に包まれたそれを、わたしはまじまじと見つめる。
「ありがと…きれい」
思わずそう呟いて、笑みがこぼれる。
「何をお前にやればいいかわからなかった」
「…またペトラに聞いたの?」
「前にお前がイヤな顔をしたから、ペトラには聞かない事にした」
なんだかんだ言いながら、リヴァイはとても優しい。
「あの時はごめんね。でも、リヴァイがくれた懐中時計、いつだって持ってるよ」
巨人と戦うリヴァイと、生きて帰ってくる事を信じているわたしが、同じ時間を過ごせるように…
わたしが花を花瓶にいけてる間に、彼はシャワーを浴び、ソファーに座った。
「冷たい水、持ってくるね」
「ああ」
「ナマエ…」
「ん?」
「今日は、たくさん部下が死んだ…」
壁外で兵士が巨人に殺されてしまうのは、日常茶飯事だった。
当たり前の光景…
その出来事に慣れない彼の強さに、わたしは愛しさと切なさを覚える。
「帰ってきた時、死んだ兵士の恋人が狂ったように泣いていた…」
コトンと水の入ったコップをテーブルに置くと、リヴァイはそれを一気に飲み干した。
「お前も、泣くのか」
「…え?」
「俺が死んだら、あんな風に泣くのか……」
今日は帰ってきた調査兵団を迎えに行けなかった。
だから死んでしまった兵士の恋人がどんな様子で泣いていたかは知らない。
だけど、
「泣いちゃうよ。…きっとその子よりもっともっと、狂ったように泣くから」
わたしは、リヴァイがいないと生きられないのだから。
「ナマエ…」
「だから、リヴァイは、必ず帰ってこなきゃダメなの」
リヴァイの前に膝をついて、彼の両手を握り締めた。
二人を祝福するように、花瓶に生けた花が静かに揺れた。
…リヴァイがいなくなった世界で、わたしは生きていける自信がない。
だけどもし彼がいなくなっても、わたしは彼を思いながら生き続けるのだろう。
それをきっと、リヴァイは望むはずだから。
それでも、そんな想いはリヴァイには伝えない。
「俺の、帰る場所か」
「リヴァイ…」
「おいナマエ」
「え?」
ぐい、と引き寄せられて重ねられた唇は、その後わたしの耳元でボソリと囁いた。
Ich liebe dich...
「愛してる」