short/温かな光

□兵長なんて
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「約束だったじゃない!」


自分でもビックリするほど大きな声で、わたしはリヴァイに向かって叫んでいた。


「うるせぇな」


リヴァイはブーツを履きながらボソリと呟いた。


「何が人類最強なの!それは巨人に対してだけなんだね!わたしにとってのリヴァイは人類最低なんだから!」

「本当にお前…うるせぇな」


今日はリヴァイの剣裁きについて詳しく研究させてくれる予定だった。
なのにペトラと用事があるとかなんとか言って、彼は扉をバタンと閉めて行ってしまった。

別にペトラに嫉妬している訳じゃない。
確かにペトラは可愛いし強いし可愛いし魅力的だけど…

そもそもなんで先約のわたしよりペトラ!
確かにペトラは可愛いし強いし可愛いし魅力的だけど…

…なぜわたしは二回も言ったの。


最近なかなかリヴァイと会えなくて、今日はようやく剣裁きを名目に会える日だった。
遠足前日の子供のようになかなか寝付けず、楽しみにしていた今日なのだ。

…いやいや、もちろんちゃんと資料も用意しましたけれども。


そうしてわたしの怒りの矛先は、


「そーいう事なのよハンジ!」


ハンジならきっと、研究したいわたしの気持ちをわかってくれる。


「そんな事言って、リヴァイに会いたかっただけなんでしょー?もしくはペトラに嫉妬してるとか!」


わたしはハンジの眼鏡をとりあえず砕いて、団長の部屋へ向かった。


コンコン


「誰だ」

「エルヴィン団長…ナマエ・ミョウジです」

「どうしたナマエ、入っていいぞ」


そこには相変わらず優しいエルヴィン団長の微笑みが。


「久し振りだな…」


変わらない笑顔に、慈しみがこみあげてくる。


「団長…あの、お茶を入れさせていただいてもよろしいですか…?」

「ああ、ありがとう。久し振りだな、ナマエのお茶が飲めるなんて」


うーん、と背伸びをして、団長はソファに移動した。
そこへお茶を運ぶと、ポンポンと隣の座面を叩く。

座りなさい、と言う事だろう。


「懐かしいな、こうして傍にいられるのは」

「そうですね…」


104期生が入団して、調査兵団の雰囲気はガラリと変わった。巨人の研究も飛躍的に進歩しているためか、リヴァイもエルヴィン団長も忙しい。

過去の事を忘れてしまった訳じゃないわたしたちは、どこかに気恥ずかしさを抱きながら、肩を並べている。


コンコン
ガチャ


「エルヴィ…」


無作法にも返答を待たずして団長室の扉を開けるのは、この男だけであろう。


「…エルヴィン、ハンジが呼んでたぞ」


リヴァイが言った。


「ああ、すぐ行こう。ありがとうナマエ、美味しかったよ」

「は、はい」


あぁ、やばい…。
よりによって、昔の男と二人きり隣に座ってお茶を楽しんでるところをリヴァイに見られるなんて。


「ナマエ、お前、いい度胸してるな」

「お、お互い様じゃない…ペトラと何してたの?」


あぁ、やっぱりわたし、ペトラに嫉妬してるんだろうか。


「ペトラの空いた時間が今日しかなかった」

「……っそ」

「ほら」

「?」


リヴァイが差し出したのは、懐中時計だった。
繊細な、美しい彫刻の、キラキラと輝く懐中時計…
これをリヴァイが選んだとは思えない。
ペトラに手伝ってもらったのだろう。

…そう言う事だったのか。


「傍にいられない時も、同じ時間を生きる」


ぷい、と後ろを向いたロマンチストな彼を追い、その手を繋ぐ。


「ありがと…リヴァイ」

「…だけどまさか、エルヴィンの所にいるとは思わなかったな。帰ったらたっぷり説教だ」

「別に、やましい事なんてないし…!」

「俺が不愉快だ」




兵長なんて



(たまには可愛いじゃないの……)




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