long/温かな光
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その壁はとてつもなく大きくて、町の人たちは皆、何の驚異を感じる事なく穏やかに暮らしている。
100年間安泰だった壁内。
それは町全体を取り囲む、高さ50メートルにも及ぶ強固な壁。
わたし達が驚異と呼ぶ…『巨人』と呼ばれる存在は、この壁の中には決して入ってくる事はできない。
もちろん、
だからと言って、壁の中で一生を終えたくなどないと考える人間がいるのも、当然の話だけれど。
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「団長?エルヴィン団長…?」
とんとん、と書類を揃えた後、隣でぼんやりとしている団長に声を掛ける。
「あ、あぁ、なんだナマエ」
「…どうかされたんですか?今日は少し、体調が悪いのでは?」
「いや、そうではない」
ふぅ、と小さな息をはいた後、彼は凜とした表情をわたしに向け、言った。
「明日から、新しく調査兵団に入団する者がいる」
「え?調査兵団に!?」
エルヴィン団長はいつだって大切な事をギリギリまで教えてくれない。
にしても、壁の外で巨人と戦う死と隣り合わせの危険な任務に、よくこんな時期に志願者がいたものだ。
「君にも会わせておこう」
団長はガタンと音を立てて席を立った。
そして真っ直ぐにわたしを見据える。
「彼の部屋はもう用意してあるんだ。案内しよう」
「あ、いや、でもわたしは…」
わたしはエルヴィン団長の隣で雑務処理をしていればそれでいい。それがわたしの仕事なのだ。
なぜに突然、一介の兵士を案内されなければならないのか。しかも、団長直々に。
「君はわたしの秘書のようなものだ。様々な事で彼と関わらなければならない。彼はちょっと変わっていてね…早く君とも打ち解けてほしいんだよ」
なんとも腑に落ちない説明を受けながら、わたしは団長の後を追った。
そしてわたしは、団長の紹介で出会った彼に驚愕する。
「なんだ、女じゃねぇか。使えるのかそいつは」
一瞬だけ振り返ったその男は、わたしと同じくらい小柄な体型で、パタパタとはたきをもって自室を掃除しているところだった。
団長を前に、なんだこの言葉遣いは、この態度は。
「彼の名はリヴァイだ」
「…あ、はぁ」
こんな小柄で潔癖そうな奴に、調査兵団など勤まるのだろうか。
走れるのか?跳べるのか?闘えるのか?
「リヴァイ、彼女の名前はナマエだ。何かわからない事は、私か彼女に聞いてくれ。ナマエは戦闘には加わらせていないが、巨人や武器等の知識については豊富だ。自室もあるが、主にわたしの部屋にいる」
そう言うエルヴィン団長の声を無視し、その失礼な男は部屋の掃除を黙々と続けている。
「ナマエです…初めまして。どうぞ、よろしくお願い致します」
わたしがこうも丁寧なのは、エルヴィン団長の顔を潰さない為だ。
断じてこの男に敬意を払っているわけではない。
「おいナマエ」
「……はい」
「いくら空き部屋と言っても、掃除くらい定期的にしておいたらどうだ。それでも女のつもりか」
カチン、ときたわたしの手を、エルヴィン団長がそっと握った。
「ナマエ」
そう団長に優しく温かい声で名前を呼ばれると、心が穏やかになっていく。
「すまなかったな、リヴァイ。ナマエ、手伝えるか」
「あ、はい」
「おい女、雑巾を持ってこい」
吐き捨てるように言ったリヴァイの双眼は、怖いほど執拗にわたしを見つめていた。