聖闘士星矢

□クレイドール
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エリュシオンの使用されていない神殿は複数存在する。
その神殿群の中でも一際壮麗な大神殿が建っている。
大階段の伸びるその先に、一際高い土台の上に建っている主無き大神殿。
大神殿には豊穣を謳うレリーフが壁一面に彫り込まれていた。
レリーフの中央には長杖を手にした神が彫られている。
その神を中心に、命と実りが無限に広がっている。
この大神殿の新たな主だと双子神はパンドラに告げた。
そして、この神殿に身を置くよう申し渡されたのだ。
「この神が、冥王…」
パンドラは豊穣と冥界が結びつかなかった。
冥界は命の終焉。
魂と命が行き着く場所だ。
正確には幽冥…エレボスの世界。
全権を息子等に受け渡し、自らは闇の最果てに身を引いた。
まるで、初めから存在していたかのように、この大神殿は威風堂々と佇んでいた。
アイドーネウスの為の大神殿には、見事なポプラ並木の大庭園が整えられていた。
エリュシオンの命は潰えることはなく、変わらず美しいままだった。
「パンドラよ、ずいぶん見いっているな」
はっと振り返ると、あの双子神が忽然と現れていた。
「タナトス様、ヒュプノス様」
パンドラは慌てて膝まづく。
アイドーネウスの神殿に、双子神が何用なのだろう。
何も聞いていないパンドラは恐れ多いと分かりながらも質問する。
「恐れながら、アイドーネウス様のご用件にございましょうか?」
「まあ、そんなところだ」
答えたのはタナトス。
「せっかく神殿を用意したんだが、冥界の仕事が多忙でな。あの方はこちらへなかなかこられなくなった」
次にヒュプノスが口を開く。
双子なだけに声もよく似ているが、不思議とパンドラには聞き分けられた。
「そこで、冥界の代行者を用意し、あの方不在の折りにはその者に冥界の責務を代行してもらおうと、我等とあの方とで話たのだ」
「神といえど休息は必要だからな」
双子神はパンドラに視線を止めたまま、そう話す。
「冥界の全権及びあの方を守る大役を担う者に」
「我等は」
双子神はにっと笑った。
「パンドラお前を冥界の代行者として任命する」
双子神の声が同時に唱和する。
「私が!?」
衝撃に飲まれパンドラはその場に膝まづいたまま、双子神を見上げるしかできなかった。
タナトスが右手をかざすと、銀色に輝く一振りの長槍が現れた。
「この槍はあの方を守る為の武器だ」
差し出された槍をパンドラは膝をついたまま受け取った。
武器など扱った事などないのに、何故か槍から伝わる波動で全て理解できた。
「最高の鍛冶神ヘパイトスの手になる物よ」
タナトスは愉快そうだ。
「雷撃を呼び、あらゆる物を砕く。更には、凍てつく吹雪さえも呼び起こす冥界の槍だ」
「そして、これも授けよう」
ヒュプノスが差し出したのは牙の形をした黒曜石のネックレス。
「これがあればお前は冥界とエリュシオンを自由に行き交いできる」
冥界とエリュシオンには神しか越えられない超異次元の空間がある。
神と同じ特権をパンドラは与えられた。
「そして、全ての魔星を統べる力も」
双子神のその言葉と同時に、金銀の六芒星がパンドラを包み込んだ。
「な、何をなさいます‼」
体の内側から、あり得ないほどの力の奔流が溢れてくる。
「我等が与えし小宇宙と、その権限を持って全身全霊であの方に仕えよ!」
双子神が小宇宙と呼ぶ力はパンドラの魂にまで染み込んでいく。
この強大な力。
ただのクレイドールに過ぎた特権と権限。
全ては重大な役目の為に。
パンドラは閉じていた目を開く。
槍を強く握りしめ、双子神に礼をとった。
「このパンドラ、お役目確かに承りました!」
双子神はそれを満足そうに見下ろした。
「では、行くとしようか」
「冥界へな」
双子神は、いきなりそう告げてきた。
「今からにございますか?」
「ああ、あの方にはお目通りの許しを得て来た」
初めから双子神はそのつもりで力を与えてきた。
道はとうに決められているようだ。
パンドラは素直に承諾した。
ネックレスの力のおかげで、パンドラは双子神と共に冥界へ降り立つ事ができた。
初めて見る冥界はエリュシオンとは真逆だった。
殺伐とした暗闇の世界。
命はなく、そこに漂うのは確かに終焉だ。
しかし、確かにそこは世界だった。
死の秩序、命の終わりの行き着く先。
そして次に至る為の魂の来る場所。
神に等しい特権を与えられてか、パンドラはすぐ受け入れる事ができた。
そしてその秩序を作り上げたのはアイドーネウス。
「あの方はここで冥界の執務に勤しんでおられる」
双子神が示した先には、荘厳な建物が。
質実剛健で、神殿の規模ながらも行政機関の雰囲気が強かった。
「あの方のご意向だ」
とタナトス。
「仕事をするのに華美なものは要らないそうだ」
ヒュプノスが続ける。
中へ入ると、確かにエリュシオンの神殿とは全く違う。
内部も装飾はなく、質素だった。
「この先に、我等の王がいる」
タナトスの示す先には、重厚な大扉が建っていた。
右には死を表すレリーフが、左には眠りを表すレリーフが彫られていた。
元々は双子神が座す場所だったのだ。
この装飾は、不思議ではない。
「さて、パンドラ。お前にあの方が見えるかどうか?」
楽しげにタナトスは言うと、扉の前に進み出る。
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