天神妖精

□月の民と天道太子
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カムイの神は自然そのもの。
風の神のイメージは銀翼の大鷲。
イッシャクは、自分の描いた絵を依り代に化身してきた風神にいつも通り手を振る。
「会うたびにどんどん綺麗になってるな!」
大鷲が満足げに小さく鳴く。
「へへっ。俺、曾爺みたいな立派な絵師になって、ナカツクニ中を旅するんだ!」
イッシャクの曾祖父はナカツクニ中を旅し、神々と生命に溢れた天道絵巻物を描いては、いろんな人々に配り話していたと聞いていた。
曾祖父が残した絵巻物を見てはイッシャクはいつか自分もと日々絵の練習に励んでいた。
ー見たことを感じたまま描け。お前が聞いた声を見たものを絵筆で残し、伝えるのだー
曾祖父はいつもそう言っていた。
第5天道太子だった曾祖父。
曾祖父には、他のコロポックルにはない躍動感と生命力に満ちた絵巻物がたくさん描けた。
その秘訣を聞いた時、曾祖父はただそう言った。
だから、イッシャクは自分の感じた事や、こうして聞こえてくるカムイの神や動物達の声を絵に描く。
できれば曾祖父のような天道太子となりたいと幼心にも思う。
自分の絵で人々に、世界に満ちる命や神様の事を伝えたい。
「ポンコタンの外って、実際見るのと聞くのじゃ違うんだろうなあ」
イッシャクは村の外には出ているものの、オイナ族らが暮らす界隈まではまだ出たことがなかった。
こうやって風の神や精霊達から外の情報を得ているのだ。
草花と森に囲まれてはいるが、陽光が穏やかに枝葉の隙間から降り注いでくる。
「ん?」
風の音か?とイッシャクは耳をそばだてた。
微かに、聞こえる。
狼の遠吠えだ。
それは、こうイッシャクには聞こえた。
ー私が相手だ!ー
と。
瞬間、空が目映く輝く。
「なんだあ!」
今まで見たことのない現象にイッシャクは声をあげた。
今は確か昼。
それなのに太陽がさらに光輝いたのだ。
驚いているイッシャクに、大鷲が嘶いた。
ータカマガハラの大神アマテラスだー
と。
「タカマガハラ?あの神話の神様の国?しかもこの声の主がそこの大神様だって!?」
イッシャクの中で、生きて目にかかれないだろう現象を直にみたいという好奇心が生じた。
曾祖父の絵にさえ、タカマガハラの神の絵はない。

イッシャクは気がついていなかったが、それはまさに伝道師としての使命感が突き動かしていたのだが、気がつかないのも無理からぬ事だった。

あまねく空を照らす太陽を追うかの如く、イッシャクはポンコタンの外へ飛び出していった。
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