聖闘士星矢

□クレイドール
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クレイドール。
神々に創られた傀儡。
その存在意義は、ただ神に奉仕する事のみ。
その傀儡の中でも最高傑作と言わしめる女がいた。
名をパンドラ。
彼女は至上の楽園エリュシオンの双子神の世話役として創られた土人形。
艶めく漆黒の髪に、紫紺の瞳。
妖精達さえも彼女の美貌には到底及ばない。
黒いドレスには銀色の装飾が施され、陽光を受けると、銀色に煌めく。
パンドラはいつものようにハープやフルートなど、双子神との楽器の演奏の準備をしていた。
ここ最近、これらの準備をしても双子神が来ない日もあった。
エリュシオンの外、冥界という死の世界を統治しているのは聞いているが、さして多忙ではないと双子神らから聞き及んでいたのだが…。
「ここ最近、どうしたのだろう」
パンドラは神殿の縁に歩を進めた。
かつかつ、と小気味良いヒールの音が響く。
今日はおみえになられるのか。
そうパンドラが思った時だ。
エリュシオンの空気が一瞬ざわついた。
感じた事のない巨大な見えない何か。
あまりにも大きなそれは、そこにはないのに確かに存在する。
いや、エリュシオンの外に冥界にそれは現れ、エリュシオンにさえ影響をもたらす、桁外れの見えざるもの。
パンドラは震えた。
「これが…双子神が言っていたアイドーネウスか?」
原初神の古代神の濃い繋がりを持ち、その存在はそれゆえに、形あって形無きもの。
アイドーネウス。
世界の始まりの姿。
すなわち闇。
そこにあってそこにないもの。
「まさか、アイドーネウスが冥界に現れたと?」
妖精達がその大きな存在におののき、騒ぎ始め、パンドラの元に集まり出す。
「パンドラ様!タナトス様とヒュプノス様はいずこにおわしますか?」
「このただならぬ存在はいったい何事にございましょう?」
「まるでエリュシオンが全てが飲み込まれてしまうようです!」
今までにない経験に妖精達はすっかり取り乱していた。
「落ち着け。双子神はおそらく、この気配の対応の為に冥界に行っておられるのだ。事態が収まれば、じきエリュシオンに帰ってこられよう」
それは自らを落ち着ける為の言葉でもあった。
実際パンドラも取り乱すのを押さえるのに、必死だった。
アイドーネウスが冥界に現れた。
『その時、冥界は変わる』
双子神はやけに楽しそうだった。
『エレボス御心のままに』
エレボスは双子神の親。
暗黒神。
原初神だ。
アイドーネウスもエレボスが告げた存在。
「アイドーネウスさえも、我等が認めやすい総称でしかないがな」
不意に生ずる声にパンドラも妖精達もはっと室内を振り返る。
そこには、銀髪銀眼の青年と金髪金眼の青年神が忽然と現れていた。
「タナトス様!ヒュプノス様!」
妖精達がわっと双子神にとりすがる。
パンドラは、少し遅れて双子神の元に進み出る。
「タナトス様、ヒュプノス様…以前お話されたアイドーネウスが?」
「ああ、冥界についに現れた」
妖精達をなだめながら、銀髪銀眼のタナトスが笑う。
「我等の王だ」
と金髪金眼のヒュプノスが続ける。
「貴殿方の王?」
パンドラの声がうわずる。
双子神を超える力を持った存在…。
「ふふ…面白くなってきたぞ」
タナトスが愉快気に笑う。
「いよいよ、計画の始まりだ」
ヒュプノスも頷く。
「計画…?」
小首をかしげるパンドラを双子神がひたと、見据える。
その視線に、ぞくりと寒気が走った。
「お前にもこの計画加わってもらうぞ」
「大いなる神の謀にな」
いったい何が始まるというのか。
ただの傀儡に何をさせようとしているのか。
自分の周りが変わろうとしているのだけは確かなのだと、パンドラにわかるのはそれだけだった。
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