シリーズ小説

□可愛い部下@
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「ほら・・・ついたぞ。」

 速水が一人暮らしをしているマンションに着いたことを知らせると、重たそうに顔をあげた。

「ん・・・・鍵・・・・」

 そう言って鞄に手を伸ばすが、うまく開けられないようなので俺が無理矢理奪い中を探る。

鞄のポケットの中から鍵を見つけ出し、扉を開いて引き摺るように部屋の中へ入った。

 真っ暗な部屋の電気をつける。几帳面な速水らしい、よく整理整頓された部屋だ。

 リビングのソファに速水を寝かせ、苦しそうな首元を緩めてやる。


「うっ・・・・・ぅ〜ん・・・・」

「ほら水・・・大丈夫か?」

 苦しそうに呻く速水にペットボトルの水を差しだした。

「すみません、ありがとうございます・・・。」

 速水は消え入りそうな声でそう言いながら俺からペットボトルを受け取り、口に運ぶ。
瞳をトロンとさせながら、冷たい水を流し込み、その表情にどことなくドキリとした。


「んっ・・・おぃし・・・・あっ・・・」

 半分くらい飲んだところで、手元が狂い、速水はペットボトルを落とした。
零れた水がその薄い胸板をシャツごと濡らす。


「何してるんだか・・・ホント、大丈夫かぁ?」

 俺は苦笑しながらタオルを持ってきて、速水の胸元を拭いた。

「あ・・・先輩・・・自分でやりますから・・・」

「いいって、いいって。お前酔うとなんか子供みたいだな。」

 なぜか焦ったように拒もうとする速水の手をどかして、タオルをシャツの上から押し付ける。
 胸元のあたりをタオルで撫で上げると、速水の口から甘い息が零れた。

「・・・・・っんぅ・・・ッ・・・」

「・・・・・っ!?」

驚いて思わず顔をあげると、真っ赤に上気した速水の顔が目の前にあった。

「え・・・・速水・・・?」

 耳まで真っ赤に染まり、瞳は少し潤んでいて、妙な光を灯している。
妙に色っぽいその顔にあっけにとられていると、速水は泣きそうな顔をしながら俺に抱きついた。


「えっ・・・ちょっ・・・・」

 硬直している俺の胸に顔を埋め、速水は何度も頬を擦りつける。
さらさらとした髪がくすぐったい。

「あっ・・・先輩・・・井ノ瀬せんぱぃ・・・・・」

 甘ったるく、熱を孕んだ声で、求めるように速水は俺の名を呼んだ。
いつものは違う、2人の間に流れる熱っぽい空気はどこか危険だ。


「速水・・・・お前・・・」

 俺はどうすればいいか分からずに、ただ硬直していた。
それでも心臓はバクバクと興奮気味に高鳴り、拒むことなんてできないと感じた。


 おもむろに速水の背中に手を回し、そっと背中から首にかけて撫で上げる。
びくりと肩を揺らすその反応が面白くて、何度もうなじのあたりを撫であげると速水はガバッと顔を上げ、上目遣いで何か言いたげにこちらを見つめてきた。
その顔は反則だろ。

「何で・・・そういうことするんですか・・・」

 ちょっと拗ねたような、それでいて泣きそうな声だった。

「そういうことって・・・?」


「どうして、そんな気もないのに期待させるようなことするんですか。」

「期待って・・・・」


 困ったように見つめ返すと、速水の瞳から滴が零れ、顔は俯いてしまった。

突然のことに俺は動揺し、嗚咽を繰り返す速水の肩を、子供をあやすように撫でた。
すると突然速水の身体が起き上がり、俺の身体を後方へ押し上げた。
俺はすぐに反応できるわけもなく、されるがままにソファの上に抑え込まれる。

そのまま速水は俺の足に乗り上げた。
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