シリーズ小説

□平凡君の受難@
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朝。いつもと変わらぬ通学路。
駅は先を急ぐ人々で溢れ騒がしい。

通勤ラッシュの満員電車に乗り、しばらくこの混雑の中で身動きできないまま学校へ向かわなくてはならないと思うと、毎日のことながらげんなりする。

 僕は何とか壁際のスペースを確保し、ぎゅうぎゅう詰めの車内に背を向け窓外を眺める。

窓の外の人々も忙しそうに歩き回り、道路は車でいっぱいだ。僕はぼんやりとそれを眺めながら
学校前の駅に着くまでの時間を費やす。そんな毎朝の繰り返しだ。

 「・・・・・・っ?」

ふと、何か下半身に違和感を感じた僕は、視線を下に向けようとした。
しかしその前に後ろの人の掌が伸び、僕のお尻をそっと撫でた。

(・・・・・うわ・・・・。)

背筋がゾクリとし、嫌な予感がする。
身動きができないために後ろを振り向くことができない。
身を固くした僕の身体を後ろから撫でながら、後ろの男性は一層僕に身体を近づける。

(痴漢だ・・・・・・)

 僕は恐怖で身を強張らせながらそう思った。

後ろの男性は堂々と僕のお尻を撫でまわし、もう片方の手を僕の前の方へ伸ばしグッと引き寄せる。

僕は壁に身体を押し付け、その手から逃れようとしたが、しっかりと押さえつけられ動けない。
次第に手の動きは大胆になっていき、ズボンの上から僕の中心を掴んだ。

「・・・・・・ッ!!」

僕は驚いてその手をどかそうとしたが、逆に男性の手に捕らえられ、掴みあげられてしまった。

後ろを撫でまわしていた手が前の方へとやってきて、僕の下腹部から中心へと弄り回し始めた。

「や、やめ・・・・・」

僕は危機を感じて声を上げようとしたが、すかさず男の手が僕の口を塞ぐ。
そして僕の耳元に顔を寄せ、小さく低い声で囁いた。

「こんなとこ、周りの人にばれちゃってもいいの?」

「・・・んんっ・・・」

僕はビクリと身体を震わせ息を漏らす。

「君の知り合いも乗ってるんだろう?同じ制服の人が近くにいるけど」

 僕は泣きそうになりながら、キュッと口を結び首を横に振る。

こんなところ、誰にも見られるわけにはいかない。
男のくせに痴漢に遭うなんて、
周りにばれてしまったら・・・・

そう思うとグッと息を堪えてしまう。

「ほら、ちゃんと息押えてろよ、困るのは自分だぜ?」

なんで見ず知らずの人にこんなことをされなくてはいけないんだろう。

悔しさと羞恥心で涙が出そうになる。
それでも僕は他にどうすることもできなくて、こくこくと頷いた。

男は僕の口から手を離し、また僕の前を弄り始める。
僕はその愛撫に必死に耐えながら、周りに気付かれないよう息を殺し、両手で口を塞いだ。


 男の手が僕の胸の突起を探り当て、キュッと摘み上げると、僕は快感に思わず身を震わせる。

「感じやすいんだな、もうこんなに硬くしちまって・・・・」

男は楽しそうに僕の乳首を摘みあげ、指先でコリコリと揉みあげる。
 体が熱くなっていくのを感じながら、僕は必死に声を抑えた。

男の手は僕の下半身の方に伸び、ズボンの上から僕のペニスを刺激し、もう片方の手で尻たぶを
揉みしだく。
両方からの快感に僕は身悶えながらはぁはぁと息を荒げた。

「息漏れてるぞ、そんなに気持ちいいのか?」

「はぁ・・・っお願い・・・・やめてくださぃ・・・」

僕は小さな声で必死に懇願した。

「お前の降りる駅に着いたらやめてやるよ。それまでおとなしく我慢してな・・・・」

男はそういって尚も僕の身体を弄繰り回す。僕は必死にそれに耐えながら、ただ一心に駅に到着するのを待ち望んだ・・・・・・・


________________________




 どうして僕はいつもこうなのだろう?
悔しさと恥ずかしさの中で、僕は思った。


昔からそうだった。僕は多くの同性から特殊な目で見られてきた。痴漢に遭ったのは一度や二度のことではない。

親しかった人間から迫られたこともあった。

男のくせに暴漢に襲われそうになったことだってある。

取り立てて目立つわけじゃない。とびぬけて何かができるわけでもないし、ものすごく美形なわけでもない。
なのになぜか、僕は男性から、性の対象として見られてきた。


 だからなるべく教室でも目立たないようにしている。あまり意識しないように努めている。

ある先生から執拗に身体をべたべたと触られたりしても、僕は気にしないふりをしてきた。 
 なのにこうして見知らぬ男性に、体を触られて反応してしまう自分は何なのだろう。

気持ち悪い。ものすごく気持ち悪いことのはずなのに、どうして体が熱くなって
感じてしまうのだろう・・・・・



僕は必死に堪えながら、頭の片隅に疑問を投げかけた・・・・。


__________________



電車が駅に到着し、僕はやっとのことで解放された。

ドアが開いた瞬間に、後ろを振り向きもせず、逃げるように電車から降りる。
悪夢のような時間に吐き気がする。
さっきまで触られていた下半身はじわりと熱い。
愛撫され反応してしまった自分のモノを学生鞄で隠して、早歩きで駅を出る。




(今日はもう最悪だ・・・)




少し頭痛がする。僕はうんざりとしながら学校へ向かった。
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