短編小説
□家族には内緒
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夜、薄暗い階段を駆け上がり、音をたてないように気をつけながら廊下を早歩きで進みます。
一番奥の部屋の前で足を止め、ドアの前で一拍置き、恐る恐るドアノブに手をかけます。
僕は一度大きく息を吐いて、ゆっくりとドアを開けました。
________________ガチャリ
一歩一歩踏みしめながら部屋に入り、静かに戸を閉めます。
部屋の中は薄暗く、奥の方でのランプがひとつついているだけでした。
香を焚いているのでしょうか、部屋中に独特な甘い匂いが充満しています。
ベッドの横のソファに、一人の男性が座っていますが、この位置からではよく見えません。
僕は奥のベッドの方へと向かいました。
その人に近付くにつれ、僕の胸は高鳴ります。
微かな音に気付いた男性が、僕の方に目を向けにっこりと微笑みました。
「先生。」
その男性は、お父様の友人で学者さんです。
僕には難しいのでよくわかりませんが、いろいろな研究をしており、お父様の仕事にも様々な面で協力しているらしいのです。
友人であり仕事のパートナーである彼を、お父様はお屋敷に招き入れました。
お屋敷には他にも親戚家族や仕事の部下の人たちも住んでいたので、そこに一人加わっただけの
事です。
学者さんなので僕は先生と呼んでいます。
先生は僕に勉強を教えてくれたり本を読んでくれたりします。
すぐに仲良くなって、僕はよく先生の部屋へ行くようになりました。
先生は僕にいろいろなことを教えてくれました。
僕は先生が大好きです。
お父様が仕事で帰ってこない今日のような日には、僕は人目を忍んで先生の部屋のドアを開けるのです。