短編小説

□火遊び
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案内されたのは、一見普通のホテルだった。
ビジネスホテルよりも広いくらいで、清潔感のある大きなベッドを中心にいたってシンプルな内装だ。
アロマが焚かれているのか、部屋の中は甘い香りが充満していた。

 部屋には男性が一人椅子に座っているだけ。彼が柏崎さんなのだろう。


「待っていたよ。直接会うのは初めてだね。僕が柏崎だ、よろしくね。」

 そう言って挨拶をしながら、柏崎さんは僕の爪先から頭上まで眺め、品定めをするような視線を向けた。


「実際に会うとイメージが全然違うね。想像よりもずっと真面目そうじゃないか。」

 そう言われて思わず顔がカァっと赤くなった。
目の前にいるのはネット上の僕を知る人間なのだ。
恥ずかしさと緊張で鼓動がドクドク音を立てる。


「可愛らしい顔してるのに、へぇ・・・・気に入ったよ。」

「あ・・・あの・・・」

「じゃ、さっそく撮影してみようか?」

 柏崎さんがそう言うと、向井さんが撮影用のカメラを取り出し組み立て始めた。
セットもなく、至って簡易な撮影のようだが、僕はものすごい緊張していた。

ベッドの前にカメラが固定されて、柏崎さんがカメラを操作する。どうやら彼がカメラマンらしい。

「じゃ、カメラの前にきて貰えるかな?」

「は・・・はいっ・・・・」

「緊張しなくても大丈夫。あとで編集するからカメラは気にしないで指示にだけ従ってくれればいい。
 途中で嫌になったら、すぐに止めてあげる。」

 カメラに映らない部屋の隅の椅子に腰かけ、向井さんは優しく声を掛けた。

ここまで来てもなお、戸惑っている僕に止めるという選択肢も与えてくれた。
それでも僕は、未知の期待と好奇心から恐る恐るベッドの上に乗りあげた。


「まず、カメラの前でオナニーしてみようか。」

「・・・え」

 単刀直入にそう言われて、僕は言葉を噤んだ。
ものすごい羞恥心が湧いてきて、汗が噴き出した。

「普段どおりやればいいんだ。」

「はぃ・・・・」

 恥ずかしくて、絶対無理だと思ったが、もう後戻りはできない。
僕は意を決して、ズボンのベルトを引き抜き、前を寛げた。
そして普段しているように前を掌全体で捏ねて、硬くなってきたところで下着の中に手を突っ込んだ。

恥ずかしくて、性器を晒す勇気がまだ持てない僕は、ズボンの中で
ぐちぐちと自らを愛撫する。
直接的な刺激は快感を生み出し、こんな状況でも僕は感じてしまっている。


「あっ・・・・んっ・・・」

「いいね、いつもそんなふうに弄ってるんだ。」

「んっ・・・はっ・・・はぃ・・・」

 恥ずかしいことをしているところを他人に見られている。
そのせいだろうか。いつもよりも
余裕がない。
ペニスは先走りでヌルつき、滑りの良くなった掌で擦ると気持ちがいい。
それでもズボンの中では手を小刻みにしか動かせないためもどかしい。


「後でモザイク入れるから、顔隠さなくてもいいんだよ。ほら、ズボンの中も苦しくなってきただろう。
 外に出してみて。」

 柏崎さんの言葉に促されるようにズボンの中からヒクつくペニスを取り出した。
ヌルヌルになったそれが人の目に晒されたと思ったら、より一層体内温度が上昇する。

羞恥と同時に背筋がゾクゾクして、何故だか危険な感情が胸の内に生まれた。


にゅちゅっぐちゅっ・・・ずちゅっ・・・

 僕の手の動きは勝手に激しくなって、気持ちい所をいっぱい擦りあげた。
棹を扱き、人差し指と親指で作った輪っかを括れに引っ掛けると、射精感が込み上げてくる。

「どんどん手の動きが激しくなってくね。くびれのところ擦るの気持ちいいの?」

「あっ・・・はぃ・・・んっ・・・んぅ・・・・・」

「先走りいっぱい零れてきたね。他にどこが感じるのか教えてよ。」

「あっ・・・あっ、先っぽぐりぐりすると、すご・・・あっ、きもちぃ・・・です」


 自慰に夢中になった僕は恥も外聞もなく手を動かしながら正直に答えた。
下半身に視線を感じて、一層先っぽから粘液を溢れさせた。背徳感が、僕を煽る。

「いやらしいね、ちんこヒクヒクしてる・・・」

「はっ・・・ぁっ、見ないで・・・見ないでくださっ・・・・・ッ・・・」

 自分の様子を指摘されて、僕は顔を俯ける。
見ないでといいながらも、自分を攻めたてる手は止まらなかった。

下を向いているのに、カメラ越しの柏崎さんの視線も、向井さんからの視線も痛いほど感じる。
非現実なこの状況が、すぐに僕を追い詰めた。


「あっ・・・あぁっ・・・イく、イっ・・・・ぅ・・・・ッ」

 いつもよりも早く、絶頂を迎えた。
隠すように前に身を屈め、両手で性器を覆う。
亀頭に押し付けた親指の隙間から、ぴゅくぴゅくっと白濁が零れた。

一瞬の緊張のあと、身体全身に射精後の気怠さが覆う。
いつもはもっと保つのに、誰かに見られているというだけですぐに果ててしまった。


「はっ・・っ・・・・はぅ・・・・」

「もうイッちゃったんだ。いつもこんなに早いのかな?」

 弄るようにそう言われ、僕は顔を真っ赤にして首を振った。
恥ずかしくて堪らない。

「もしかして、オナニー他人に見られて興奮しちゃった?」

 今まで黙っていたい向井さんが、ベットに乗り上げて僕に近付いてきた。
図星を突かれた僕は思わず息を噤む。


「あたりかな。撮影されて感じちゃったんだ、やらしいね。」

 さっきまでとは違う、低音でねっとりとした物言いに背中がゾクリとした。その色っぽい声はヤバい。

向井さんは意地悪く笑いながら僕との距離を詰めて、大きな掌で肩を抱いた。
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