シリーズ小説

□平凡君の受難A
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「今日の授業用ノート、長谷部君に届けたいんですけど。」


嘘をついて先生から長谷部の住所を聞いた。

いつも優等生のフリをしているだけあって、先生は俺の下心に何も気づかず教えてくれた。

部活を休んで一人で自分の家とは正反対の道をゆく。
長谷部の家に近付くごとに胸が高鳴る。
普段周りの人間には見せない、自分のしたたかな内面が心の中に充満した。
もう自分では抑制が効かない。


ようやく目的地に着いた俺はゴクリと唾を飲み込み、インターホンを押す。
ドアの向こうから足音が聞こえる。ガチャリと音がしてドアが数センチほど開いた。

中から長谷部が現れた。

俺を目にした瞬間、目を見開き何か恐ろしいものを見たかのような
表情を浮かべた。
身体が小刻みに震えていて、その表情がゾクゾクする。

長谷部は一瞬固まったのち、すぐにドアを閉めようとした。
俺はすかさずドアの間に足を入れ、それを防ぐ。

恐怖に顔を強張らせている長谷部の細い腕を無理矢理掴んだ。
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