北村理髪店

□01#ちょんきる
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「ミノ姉!きたよー!」
「あれ、なる 珍しいね」


開け放たれた硝子戸をくぐると、少し古いもののやはり見覚えのある店内。その店内の中心に長い黒髪を高い位置でひとつに纏めて櫛を口に咥える若い女の人が1人。その前の椅子に鏡を向かって座っていたのが、なるの友達のひなだった。なるはひなを見つけるなり駆けて行った。


「よお、先生 なるの保護者?」


ドキドキとしながら店内を見渡していると奥の暖簾からヒロがぱさりと顔を出した。…なんか大集合だな。


「いや俺は髪切ってもらいに…ヒロもか?」
「俺はここんがたのばあちゃんにこのもん届けに来ただけ」


身体を捻って後ろを振り返るヒロにつられて俺も後ろを覗き込む。


「シノばぁ!きたよー!」
「よく来たねぇ、なる」


ヒロの後に続くように暖簾から顔を出したおばあさんになるが駆け寄る。カンロ飴をもらったなるはひゃほー!と飛び跳ねていた。




「ヒロ、そちらは?」


どこに行ってもあいつはあんなのだな、と思っていると鈴の音のような声が聞こえた。


「ああ、稔。前に話してた東京からきた書道の先生」
「ああ、道理で見たことない顔」


ひょこっとヒロの陰から顔をだしたのはさっきひなの髪を弄っていた人だった。確かになるが言ってたようにテレビに出てそうなくらい可愛らしい。いや断じてロリコンじゃないぞ俺は。一般の意見だ。


「川越稔です。ヒロと同じ高校の2年生」
「ああ2年か。半田清舟だ よろしくな」


スッと差し出された白く細い手を握り返して握手を交わす。強く握ると折れてしまいそうでビクッとなってしまった。

…ん?川越?店の名前は北村理髪店…


「稔は母方のばあちゃんがたに2人暮らしだよ。親父さんは福岡でIT会社の社長だとよ」
「アホな父親ですが、」


へへ、と申し訳なさそうに笑う可愛らしい女子高生は東京にいる子となにも変わらずになんか日本だな、と少し安心した。


「でも母ちゃんは?」


2人暮らしと聞いて、じいさんは亡くなったのかなと察したが母ちゃんのほうは親父さんと一緒に福岡かな、と軽く聞くと、ヒロの顔があー、と少し曇った。


「身体が弱かったらしくて私を産んですぐ亡くなったそうです」


眉を下げる可愛い子にさそっそくやらかしてしまったー!とヒロに請うような目を向けた。するとヒロも可愛い子と同じに眉を下げて笑っていた。


「大丈夫です!ヒロのとこのおばさんいるし、みんなもいるし!」
「悪かったな、その…」
「気にしないで!それより!なるの付き添いで来たの?髪切りにきた?」
「ああ、ちょっと切ってほしくてな」


ばあさんがなるにやったのと同じように俺にカンロ飴をくれた稔はそこに座って待ってねー、と笑顔でばあさんのところに向かった。


「…大丈夫か 先生?」
「…なんかやらかしてしまったな、と」





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