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□メイソウするリンカク
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「私、江島神社初めてだー」


島自体も初めてだけど、と漏らす麻衣と境内をぐるりと回った。平日、ということがあるのか人はあまり居なくてゆったりとした時間が流れていた。そして相変わらず繋いだままの手。


「俺も撮影のときが初めてだなぁ」


撮影っぽくなくて小旅行してるみたいだったな、とぼやくと楽しそうと笑う麻衣。たしかにあの雑誌は自然体で楽しかった。雑誌を手にした麻衣もキラキラしてるね、と笑っていたのを思い出した。


「ね、このあとどうする?」
「うーん、そうだね」


ぐるりと回った俺たちは鳥居で振り返って一礼をすると、また手を繋いで来た道を戻りながらお互いの顔を見た。


「そういえば撮影のとき、灯台があった気がする」
「灯台?」
「うん、あと近くにカフェとか」
「へー、行きたい!」
「じゃあ行く?」
「うん!」


弾けるような笑顔を浮かべて俺を見上げた。そして調べてみよーっと、と声を出しながらゴソゴソと鞄から携帯を取り出した。画面をタッチして使う型だったから手繋いでると不便かなぁと考え離そうとすると、なんで離すの!と少し怒られてしまった。片手でも出来るのー、と伸びた声を出しながら器用に片手で携帯を操作していた。俺だったら転びそうだ、と思い彼女が転ばないように慎重に道を選び歩いた。




× × ×




「わあ、眺めすごいね!」
「ちょっ!身乗り出すと危ないから!」


高い場所にある江の島灯台の展望台。柵に足をかけて身を乗り出す麻衣の行動にギョッとしながらお腹へと腕を回して引き寄せた。ぶわりと吹いた風にワンピースの裾が舞う。


「大丈夫ですよー、これくらい」
「見てるこっちがひやひやするから」


露骨に息をつくと、えーという不満気な声が聞こえるもののそれには楽しそうな声色も含んでおり、楽しんでくれてるんだな、というのがわかった。


「わたし展望台って初めてなんだー。スカイツリーは少し怖くって」


だから最高に楽しい!とグッと拳を握りしめて言うもんだから、ふふっという笑いと共に麻衣の頭にポンと手を置いた。ホントに可愛い。手を置かれた彼女はポカンとしているが、俺の笑っている姿を見てか自分も顔を緩ませた。そして揺れる髪をおさえて俺の手に触れた。


「写真撮ろうよ!」


ね?と手首に下げていたデジカメをちらつかせ、柵の方へと俺を引っ張った。この景色をバックに、ってことか。


「すいません。写真撮ってもらってもいいですか?」


麻衣はキョロキョロと周りを見渡したかと思うと俺の手からするりと抜けて少し離れたところにいた年配夫婦のおばあさんに声をかけていた。おばあさんはにっこりと笑ってこちらへとやってきた。その後ろには同じく笑顔のおじいさん。


「景色をバックにお願いします!」


彼女はにっこりと笑い、小さくお礼をするとひらりと俺の横へと舞い戻り、腕に抱きついて笑った。照れ臭くなり頬をかくと、おばあさんはふふっと笑ってカメラを構えた。


「じゃあいきますよー。はい、チーズ」


ピピッと音がして、おばあさんがカメラから顔をあげた。どうやらうまく撮れたらしく、笑顔で俺らに親指を立てた。


「バッチリですかー!」


麻衣は嬉しそうに親指を立てながらおばあさんへと歩み寄った。…打ち解けるのがはやいなあ。苦笑していると、いつの間にか俺の隣にはおじいさんがいて2人を眺めて優しく笑っていた。


「女っていうのは仲良くなるのが早いんですねぇ」
「あー、ははっ、そうですね」


おじいさんは俺と同じことを思っていたらしく、手を腰に当てて呆れるように笑った。それにつられるように視線をやると、撮った写真を見ながら何やら2人で笑い合っていた。


「ここには旅行か何か?」
「はい、最近忙しかったので彼女を喜ばせてやりたいなって…」


それとここの土地が好きなので、と続けるとおじいさんは目尻を下げて笑った。…若い頃はハンサムだったんだろうな。


「わしらは毎年この時期になると来ていてね。この時期は人が少ないから」

ゆっくりさせてやれる、と目を細めておばあさんへと目をやった。そうなんですか、と相槌をうった俺だったけどその話に心が温かくなって笑みが零れた。どんなに年を重ねても相手を思いやれるって素敵なことだな。


「恋人の丘にはもう行ったのかい?」
「…恋人の丘?」


おじいさんの突然の言葉に繰り返しぼやくと、にっこりと笑った。


「恋人の丘って呼ばれるところに龍恋の鐘っていう鐘があってね、この鐘を鳴らした2人は決して別れないって言われているんだ」
「へぇ、そんなのがあったんですね」


スタッフさん俺に彼女いるとか知らないから言わなかったのかな。撮影のときにも聞かなかった話に耳を傾けた。


「わしらも若いときに行ったよ。そのときは人が多くてね。今ならたぶん人はいないんじゃないかな」


平日ですしね、と続けばそうだ、とおじいさんは笑った。いい時期に来たな、と俺の背中をポンと叩いた。ホントにいい時期だ。人とあまりいなくて。そんな中でこんな素敵な出会いもあった。


「いい情報ありがとうございます。早速行ってみます」
「あぁ、わしらみたいにいい夫婦になれるよ」


冗談めかして大きく笑うおじいさんになりたいです、と笑えば今度は大きく頷かれた。


「あんたー、そろそろ行くよー」


突然聞こえた声に目をやると話が終わったのか2人はこちらを向いていた。


「じゃ、これでお別れだな」
「はい、ありがとうございました」


そう交わして2人の方へと足を進めた。そばに行くと俺の手を取っておばあさん、おじいさんにお礼を言う麻衣に笑みが零れた。


「うんうん、2人仲良くねぇ」


ポンポンと麻衣の肩を叩くおばあさん。それにはい!と返事をして展望台から去って行く2人に手を振っていた。俺も2人に会釈をして見送った。




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