Voice

□今はまだ
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「あれぇ?好きなんじゃないの?」


その話し口調はとある銀髪を思い出さされ、うっ…と言葉に詰まってしまった。

そう。俺は麻衣ちゃんに好意を寄せている。なんで杉田さんがそれを知っているのかって…そんなに分かりやすいのか?


「まあ言い出しにくいよな。坂下ちゃんはホント妹みたいな感じだし」


細谷くんも言えないでしょ、と言いながらゲーム機を鞄へとしまい込んで台本を取り出した。

杉田さんのその言葉にまた俺は、うっ…と言葉に詰まってしまった。…そう。言える勇気がない。言ってしまってぎくしゃくするくらいならいっそ言わないほうが、って。

チラリと視線を女性の輪に向ければ、輪の中心で笑顔を零す麻衣ちゃんがいた。それを見てはぁ、と息を漏らせば隣から笑い声が聞こえてきた。


「まあがんばりな、ぽそや君」


そんな言葉と共にポンポンと肩を叩かれる。杉田さんのラジオにお呼ばれしたときに付けていただいたあだ名。それが今は胸に痛かった。また、はあとため息をついたとき、ぐいっと腕を引っ張られた。


「兄さんはわかってくれますよ!」


俺の腕を引っ張った人物の正体は、俺の腕を抱きしめるように持ちながらいつの間にか隣に座っている麻衣ちゃんだった。

えっと…これは…。
俺が声もなくパニックを起こしていると、大きな瞳がくるりとこちらを向いた。


「玉子焼きは甘いですよね兄さん!」
「…へっ?」


思ってもいなかった言葉に間抜けな声が出た。すると麻衣ちゃんは「あのですね」とその言葉を発した経緯を話し始めた。


「玉子焼きの味の話になって、みなさんがしょっぱいって言うんですよ!甘いですよね普通!」


なんつー話を、と隣から聞こえたが俺はうん?と言うことしか出来なかった。だけどその返答は麻衣ちゃんにとって良かったものらしく、「ですよね!」と笑顔を光らせた。


「ほんとにお兄ちゃんみたいだね」


この様子を見ていた女性共演者の方がふふ、と笑いを漏らした。それを聞いた麻衣ちゃんはへへ、となぜか嬉しそうに笑っていた。


「おにーちゃんだもんね!」


やはりハタチには見えない笑顔を浮かべながら、役の声で呼び方で、腕を掴む手を少し強めて俺に向かって言った。予想以上の破壊力で必死に顔を保ちながらそうだね、と笑い返した。



今はまだ、兄さんというポジションだけど、俺もまだ言える自身はないけど、いつか…いつか言える日が来たらこの手を握り返したい。

良い返事じゃなくても麻衣ちゃんのことだから喋らなくなったりとかはないだろうけど、もし、もしそうなったときにはちゃんと耐えれるように。

隣で「ヘタレ」と漏らす杉田さんの言う通り、男らしくないけど。その勇気が出るまでは。

今はまだ、このままで。




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