北村理髪店
□01#ちょんきる
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「先生遊びに来たよー!」
太陽がよく似合う笑顔でそうデカい声を出しながら俺の家の縁側に滑り込んでくるのはこの村の悪ガキなるだ。最初の頃は籠城なんかやったりもして家への侵入を防ごうとしたがどこからでも入ってくるこいつにさ意味がないとわかった今何の対策もしていない。
「お前なぁ、俺は今仕事中なんだよ」
縁側でゴロゴロと回転するなるを横目に自分が書いた字腕組みをしながらうーんと眺める。…書き直しだな。間隔が狭いかな。いやそれよりももっと掠れた感じに…
「ていやー!」
「ああー!何すんだお前ー!」
「先生遊んでくれんとね」
「だからって…ああ、俺の字…」
なるによって引き千切られた紙を両手に思わず涙が零れそうだ。…いや、まあ書き直しだからいいんだけど。書き直し書き直し、とため息をついて新しい紙を用意する。その新しい紙の上でなるが寝転がっていたので頭を叩いておく。
「いてー!先生、なんばしよっとね!」
「お前が紙の上で寝てるからだ」
「…ん?先生、髪伸びた?」
「あ?」
うおおお、と頭を抱えてジタバタしていたなるがピタリと動きを止めて俺の顔をじっと見た。正確には髪なんだろうけど。
「そうか?こんなもんだろ」
「いや伸びたよ!前はこんくらいやった!今はこーんくらい!」
なるはスクッと立ち上がり前髪の位置を指で表してくれる。…そんな顎下まで前髪伸びてないと思うんだが。でもまあなんかもっさりしてきたし、切りたいよなあ。でもここに美容院なんて、、
「先生 髪切りたいか?」
「まあ、切りてぇけど…」
伸びたと言われると少し気になってしまい前髪をちょんと弄ってみる。そんな変わってないと思うんだけどな。
「んじゃ ミノ姉のとこ行こ!」
「…ミノ姉?」
俺が聞き返すとなるがニッと笑った。まだ住人がいるのか…
「郷長んがたのとなり!」
「郷長何も紹介してくれなかったな」
行こう行こう、と張り切るなるの後を歩きながらやはり髪を触る。…そんな長いか?
「ミノ姉バリ可愛かよ!」
「そのミノ姉っていくつだ?美和やタマと一緒にいるとこ見ないってなると…」
「高校生!」
優しいんよー、とけたけた笑いながらなるは駆けていった。そしてもう見慣れた郷長の家の隣、赤と青がゆっくりと回る家に奇声をあげながら飛び込んで行った。なんか初めて見慣れたものを見たな。(サインポール)