Anime

□主人公になれなくたって
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眼鏡をかけたおじいちゃん先生の弱々しい声が私の睡魔を呼び寄せる。ノートを取っていた手を止めて首を回して、如何にかそれに抗おうとする。

この先生の授業いつも眠いんだよね〜

眠気を覚えるとノートを取るのも億劫になって、窓の外を眺める。これで1番後ろの席なら私は漫画やアニメの主人公の立ち位置だ。かと言って1番後ろだったとしても、窓の外にはグラウンドが広がっているだけで、ときめくものは何もない。今は2月で外で体育をしているクラスもなく、非常につまらない。漫画やアニメの主人公はいいな〜っと心で呟きながら、ポケットから携帯を取り出す。

最新のものではなくて、折り畳み式の今となっては持っている高校生は珍しい携帯だ。私は中学3年のときに初めて携帯を与えられたときからこの携帯を愛用している。友達に変えないの?と言われても、今流行りのアプリが使えなくても、コレがいいのだ。なんたって偶然にも高校で出来た彼氏さんと同じ機種、色違いだったもんね〜

ふふふ、とニヤける口元を堪えながらその彼氏さんにメールを飛ばす。彼氏さんは意外と真面目だから返って来ないだろうけど、と思いながら携帯の背とストラップを撫でる。…あ、やばい。今絶対ニヤけてた。

周りをちらりと確認して、誰も見ていないことに胸を撫で下ろす。そして、そろそろ本格的に睡眠学習を始めようかとしたとき、手の中の携帯がヴヴッと震えた。


『ちゃんと授業聞け、ダアホ』


まさかと思ってメールを開くと、目に飛び込んできた文字にゴツっと机に突っ伏した。隣の子が大丈夫?と聞いてきたが全然大丈夫全然平気ノープロブレム。



『順平も聞いてないじゃん』

『ダアホ、自習だ』

『えー、こっち来てよ』

『先生誰?』

『生物の八木』

『ああ、おじいちゃん先生な。
ちゃんと聞いてやれよ』

『やだ〜、会いたいよ』



そこまで会話したところでピタリと返信が来なくなった。うえええ?!なんで?なんで???うざかったのかな?うざかった???

ぐりぐりと額を机に押し付けながら携帯を握りしめる。


『うざかった?ごめん、会わない。嫌いにならないでー』


順平に嫌いになられるとか本気で病みそう。あー、ダメだ。想像しただけで涙が…


『あと10分で昼だから保健室って行って出て来い。どうせ弁当持ってないだろうから購買行って一緒に食おう。』



「せせせ先生!体調が悪いのでちょっと保健室!!!」


高速でメールを保存して、手を真っ直ぐとあげて立ち上がる。全生徒の目線は私だ。でもそんなのは気にならない。だって順平が!!!


「うむ、顔が赤いようだな。熱かもしれん。行ってきなさい」
「いえっさー!!」


後ろに隠し持っていた財布と携帯を握りしめて教室を飛び出した。そして購買へと続く階段を数歩飛ばして降りてようと角を曲がる。


「うおっ、あぶねー…」
「わっ!…すいません、って順平!!」
「うるさい、なまえ。授業中だろ」


角を曲がるときにぶつかった鼻を抑えながら見上げると、シーっと人差し指を立てた順平がいた。


「へへへ、ごめん」
「絶対元気良く出てきただろ演技しろよ、演技」
「順平に会いたかったんですぅ」


購買へと向かって歩き出した順平の後ろをぴょんぴょんと跳ねながらついていく。腕組んじゃお、と手を伸ばすと同時に順平がピタリと足を止めた。


「…俺も、会いたかった、」


そのあと、赤面しながらそっぽを向く順平に叫び声をあげて、口を押さえ付けられたのは言うまでもない。




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