Anime

□想い合う
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「リコちゃーん、ご飯食べよ!」


号令の挨拶と共に机の横にぶら下げてあるお弁当の袋を鷲掴んでリコちゃんの机へと向かった。朝寝坊して食べ損ねたからお腹ペコペコだ〜…

近くの椅子を引っ張ってきてリコちゃんと向かい合うように腰を下ろしていそいそと巾着袋を開ける。


「あ、ごめん、ちょっと私…」
「おーい、カントクー」


いただきまーす、と手を合わせたところで2つの声が重なって思わずそのまま固まってしまった。


「あら日向くん、どうかした?」
「いや木吉が呼んでっからさ」


顔をあげると私の後方に立っている男子バスケ部主将、基私の好きな人が廊下を指差しながら立っていた。初めのうちはリコちゃんとの会話を後ろから聞いている程度だったが今では普通に会話はできるようになった。でも少し恥ずかしいことには変わりなく、もそもそと玉子焼きを口に含んだ。


「鉄平ぃ?私ちょっと先生き呼ばれてるのに!なまえ、ごめんね先食べてて?」
「あ、う、うんっ」


リコちゃんは椅子から渋々といったように立ち上がり怪訝そうな顔で廊下から顔を覗かせる木吉君を睨むと私に向かってごめん、と手を合わせて小走りでそちらへと向かって言った。もそもそも咀嚼しながら手を振っていると、後ろからふぅ、と小さなため息が聞こえた。

てっきりどこかへ行ってしまったと思っていた日向君の存在にドキリとして恐る恐る振り返った。するとリコちゃんが向かった方向を見ながら困ったように笑っている横顔がそこにはあった。

ずっと見てきたからわかること。痛む胸を知らぬ振りをして口の中のものを胃に押し込んだ。玉子焼きが喉に引っかかったように苦しかった。日向君はリコちゃんのことが好きなんだ。

ちらりと廊下に目をやるとリコちゃんと木吉君が何か言い合っていた、と言っても木吉君はただ笑ってリコちゃんが何か言っているようだけど。リコちゃんと木吉君は前に少しだけ付き合っていたことがある。後からになって聞かされたことだから詳しいことはわからない。だけど、それを日向君が知っているのか、どう思っているのか…。その時は気が気でならなかった。


「あの2人付き合っても付き合わなくてもあんま変わんねぇな」


ははっ、と笑いながら降ってきた言葉に私は固まってしまった。見上げると、まだ2人の方を見ている日向君が優しい表情で微笑んでいた。胸に鋭い太い何かが突き刺さったみたいに動けなくなった。


「あれ、知らなかった?カントクと仲良いから知ってると思ったんだけど…」
「…知って、る」


くるりとこちらを見た日向君から顔を逸らすように顔を伏せた。寒くもないのに手が震える。


「木吉はカントク怒らせてばっかりだしなぁ。俺にもだけど」


呆れたような口調で言いながらリコちゃんの席へと腰を下ろす日向君。いつもならこんな近いことはなくて嬉しいはずなのに、今は刺さるように心が痛い。

日向君はリコちゃんが好きで、私は日向君が好きで。リコちゃんを妬むとかそんな気持ちは一切ないけど、ただ、私じゃ敵わないと強く感じる。


「あの2人はな、いつも…」
「日向君は…っ!…日向君は、」


眉を下げて笑う日向君に心が痛い。突然大きな声をあげた私にびっくりとしている眼鏡越しの瞳。


「…日向君は、リコちゃんのこと、好きなんじゃないの…」


驚いて開かれた瞳がより一層開かれる。かと思うとボンッと顔が赤くなった。

終わったと思った。


「え、あ…いや、」


口元を手の甲で隠しながら少し目を逸らした。耳まで真っ赤で、すごく慌てている。…やっぱり好きなんだ。なのに、なんでそんな…。


「じ、じゃあ、なんで笑えるの…」
「んーなんでだろうな…。それでもやっぱり、好き、だからかな…」


照れ臭そうに笑う日向君に、はらりと涙が零れた。ギョッとした日向君の顔がぼやける。慌てて制服の袖で拭って、乱暴にお弁当を片付けた。


「みょうじ、どうした…?」
「ご、ごめん何もない…っ」


自分が情けなくなってその場から離れようと椅子から腰をあげると同時に手首を掴まれて、立ち去れなくなってしまった。


「は、離して…」
「なんか不味いこと言った?謝るから。悪かった」
「ちがう…っ!」
「女の子泣かせて見過ごせない。…もしかして、木吉のこと…」
「ちがう…っ、ちがう…」


木吉君のことが好き、と言わんとしている日向君の言葉を遮ってぶんぶんと首を横に振る。そのたびに涙が散る。自分が恥ずかしい。


「じゃあなんで…」
「…好き、だから」
「え…?」
「…日向君が好きだから、」


もう涙でいっぱいになった視界に日向君は映らない。思いっきり手を振り払って使っていた椅子もそのままに教室を飛び出した。教室を出たところでクラスの伊月君にぶつかってしまったがそんなこともお構いなく、兎に角あの場から離れたかった。





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