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□体温は君の
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「…なあ、なまえ」
「なによ?」
「あついんだよ!!!」


離れろー!と俺を背凭れのように使う彼女の後頭部を自分から離すように押しやる。彼女はというと痛いー!と叫んでいる。


「ちょっと!久しぶりに会えたんだからそれはないでしょ!」
「だーかーらー!あちーの!」
「冷房でも扇風機でもつけたらいいでしょ!」
「冷房なんてついてねぇし、扇風機は壊れたんだよ!」


後頭部を押さえて振り返ったなまえとぎゃあぎゃあと言い合いを繰り広げた。彼女とは中学が同じで高校は別々だ。あっちも部活やら勉強やらで、俺も部活で全然会えていなかった。そして久しぶりに部活が休みになった土曜日。なまえは部活なんだろうなあ、と連絡を入れると奇跡的にかぶった休み。そんな久しぶりだからこそこんなくだらないことで言い合いはしたくないのに。


「おばさんに言って直してもらったらいいでしょ!」
「だー!もう!お前が来ると同時に母さん出かけていっただろ!親父は店番だし!」
「じゃあもう我慢してよ!」
「お前が離れたらいいんだろ!」
「いーやーだー!」


またもや身体を押しやるが首をぶんぶんと振られて身体に細い腕を回されては身動きがとれない。なんだって今日はこんなにくっついてくるだ。いや、嬉しくないわけでもないが、今日は気温が高い。まだ本格的な夏には入っていないのに暑い。だから俺はハーフパンツとTシャツで。なまえも短パンにタンクトップで。露出が高いわけで。


「おいっ!まじやめろ!ダアホ!」
「なんでよ!」


俺の脇腹のほうに顔を埋めていたなまえは顔を上げた。そのアングルはやばい。胸がモロに当たってるし、俺の身体となまえの身体で、その…胸が……


「あー!俺が離れるから離せ!」
「やだって言ってるじゃん!」


なまえからバッと目を逸らして、腰を浮かして移動しようとする。だが、それもなまえがくっついているからうまくできない。

ほんとにやばいやばいやばい。もう暑いとかどうでもいい。胸が当たってんだよ!!


「…なんでそんなに離れたいの」


どうやってなまえから離れようかと高速で頭を回転させていると、突然変わった声色に視線を戻した。するとそこにはさっきまでの威勢の良い彼女はいなくて、俺のTシャツの裾を握り締めていた。


「…ずっとずっと会えなくて、会いたかったけど我慢して…。日向君の近くにはリコちゃんもいるし、学校の子だって…」
「…お、おい、なまえ?」
「…なんでくっついちゃダメなの?」


その言葉と共にはらりと落ちた雫は俺のTシャツに染み込んだ。その光景にギョッとして、慌ててなまえの顔を覗き込んだ。


「えと、なまえ?」


ひっく、と肩を震わせながら涙を流す彼女。俺はどうしたらいいかわからず、震えその肩に手を乗せた。それと同時にわああっと俺の脇腹にまた顔を埋めた。


「会いたかったのに!」
「いやっ、あの…わかった!わかったから胸が!!」


言ってしまった後にはもう遅い。しまった、と口を押さえるもののなまえが涙に濡れた顔をあげるほうが早い。


「いや…その…」
「…胸?」
「ちがうっ!あ、いや違くもなくはないけど…」


ぼそぼそと言葉を漏らしながらなまえから距離を取ろうとするものの、すとんと流れるような動きで俺の上に座られた。


「ちょっ!お前!」
「胸が当たってたから離れたかったの?嫌いとかじゃないの?」
「そうだって!いや最初は暑かったからだけど!わかったなら下りろよ!ほんっと無理!下りろ!」


なまえから顔を思いっきり背けてそう叫んだ。何考えてんなこいつは!俺が男だってわかってんの?いや、絶対わかってない。一種のじゃれあいとしか思ってないな、こいつ。


「…よかった」
「良くない!ダアホ!」


へたり、と力が抜けたように俺へと身体を預けるなまえに自身が少し反応しかけた。

いや、まじで洒落になんねぇよ。おさまれおさまれおさまれ。

心の中で念じながら顔を背けてバスケのことばかりを考えようとするが、こんな暑い中これだけ密着していればいやでもわかるわけで。バクバクと鼓動が増すのがわかった。


「おい!なまえ!!」


どけろ、と口を開こうとしたがふわりと頬に手を添えられ、なにかと思ううちに唇に温かい感触があった。眼鏡が押される感覚がやけにはっきりとしていた。涙に濡れた長い睫毛が伏せられていて、キスされていると気付いたときにはもう唇は離れていた。そっと俺から身体を離すなまえは照れ臭そうにはにかんでいた。それをぽかんと見ていた俺は、彼女の肩をぐい、と掴んで床へと押し倒した。


「ほんと、わかってないだろ」
「…なによ」
「俺だって男なんだけど」
「そんなの知ってる」


いきなり押し倒されたなまえはビックリしたのか胸の前で両手を握っていた。顔の両側に手をついて見下ろすと、どくんと身体の内側が熱くなった。


「この意味わかってんの?」
「…わかってるよ」


おずおずと手を伸ばして首の後ろへと腕を絡める。その腕に沿って首筋に口付けた。耳元でなまえの息遣いが聞こえて身体の底が熱くなった。


「ふふっ、眼鏡痛いよ」
「じゃあなまえが外して」


そろりと伸びてきた手が俺の眼鏡に触れて、すっと抜くと視界がぼやけた。この距離なら辛うじてなまえが見えるくらいだ。俺の眼鏡を手を伸ばしてテーブルの上に置いたなまえの腕を掴んで頭の上でまとめた。




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