Anime

□日向順平生誕祭2014
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冬はとっくに過ぎたというのに、やはり夜は少し肌寒く感じる5月。閉め切ったはずの自室にサムさを感じてぶるりと震え、握っていたシャーペンを置いてひとつ伸びをした。身体を捩ってベッドのスタンドに置いてある時計を見ればもう少しで日付が変わる頃を指していた。


「…まじかよ。部活あんのによ」


小さくため息を吐いて机の上に広げた数学の参考書とノートを眺めた。この参考書のとある問題が解けなくて、ぜってー解いてやると意気込んだのがはや1時間前。明日の部活の時にでもカントクに聞こうと机の上はそのままに、眼鏡も投げ出してベッドへと滑り込んだ。

ずっと同じ姿勢だった背中が少し痛んだ。電気電気…と漏らしながら手探りで照明のリモコンを探した。中々見当たらなくてガバリと起き上がれば、それと同時に部屋に響く電子音。眼鏡をかけてない目で辺りを見渡せば机の上で光るもの。…誰だよ、こんな時間に。苛立ちを少し覚えながら、伊月か木吉だったら即切ろうと誰からの着信かもわからずに通話のボタンを押した。


「もしもし」


思ったよりも不機嫌な声を認識するよりも早く、あっ、という弱く小さな声が耳に届いた。


『ご、ごめんね…。ね、寝てた?』


鈴が鳴るように響く声に勢いよく携帯を耳から離し、画面を確認するとそこには〔なまえ〕と彼女の名前が表示されていた。こんな時間になまえから電話が来るとは思ってもいなかった。だってなまえは11時には寝てるから…。


『…日向君?』
「あぁ、悪い。起きてたよ。
どうした?何かあったのか?」


携帯から漏れる微かな声に慌てて携帯を耳に押し当てた。こんな時間になんて、何かあったんじゃないのか。不安が募りながらも、電話があったことを少し嬉しいと感じた。


『あのね…
お、お誕生日…おめでとう』
「…へっ?」
『ど、土曜だから会えないし…でもプレゼントは渡しに行くよ!でも、その時じゃ1番には言えないし…えっと、その…』


ベッドのスタンドに置いてある時計は日付も表示されていて、『5月16日』と書かれてあった。…そうか、誕生日か。


『そ、それだけなんだけどね!とりあえず1番に言いたくて…ごめんね、遅くに』


なまえは俺に「おめでとう」と言うためにこんな時間まで起きていたのだろうか。11時をすぎると眠い眠いと言い出すあのなまえが。今日も眠い眠いと言いながら、がんばって起きてくれてたんだろうか。


「…ありがとな、なまえ」
『う、ううん!全然!』
「すげぇ嬉しい」


俺が言うとだんまりと何も聞こえなくなる携帯に、照れてんのかなと笑いを漏らした。ほんとにかわいい。


『プ、プレゼントもいっぱいあるよ!あとケーキも焼いたよ!味はわからないけど…』


慌てたように話題を変えるなまえがまた可愛くて顔が緩む。俺はベッドにごろりと横になって、ありがとう、と呟いた。


『日向君部活あるんだよね?いつなら都合がいいかな?』
「12時に部活終わるんだけどさ、一緒に飯行かね?」
『行く!行きたい!』


ぱあっと花が咲いたように明るくなる声にまた笑ってしまった。飯くらいでこんなに喜ぶなんて。


「終わったらまた連絡いれるわ」
『うん!じゃあ学校まで行くね!』
「いいよ、迎えに行く」
『それじゃ大変だから行く!絶対』


絶対行くから!と言うなまえにわかったわかったと返せば、ふふふと可愛らしい笑いが返ってきた。


『楽しみ。ありがとう日向君』
「俺の方こそありがとな。ホントにまじで嬉しい」
『どういたしまして!遅くにごめんね。寝るよね?会えるからもう切るね?』
「おう。ありがとな」
『いいのいいの!
日向君大好き!じゃあね!』


突然の告白が聞こえたと思ったら、すぐに無機質な電子音へと変わった。言うのがんばっただろうな と、赤面するなまえを思い浮かべて幸せな気持ちになった。











そして約束の12時を少し過ぎた時に遅くなってごめんね、と困ったように笑いながら、休日だと言うのに『学校に来る』ということからか制服に身を包み、両腕にはたくさんの紙袋と自分の顔よりも大きいケーキの箱を抱えてなまえがやってくるのは、もう少し先のこと。





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