Voice

□金星環
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「佳正さぁん」
「なに…ぐはっ!」


ふわりとしたソファに身体を埋めながらテレビのリモコンを弄っていると、突然可愛らしく俺を呼ぶ恋人に振り返れば、これまた突然その恋人が降ってきた。ソファの背から身を乗り出すように俺の上へとダイブして、キュッと左手を握ってきた。

ん?可愛い。


「佳正さぁん」
「ん?」


その体勢のまま俺の手のひらを広げてはジーっと見つめ、顔を顰めて、あーうー、と唸っている麻衣。


「なに?どうしたの?」


テレビのリモコンを隣に置いて、反り返るような体勢のままの麻衣をちゃんと座らせる。見てて危なっかしいよ、ほんと。俺の太ももの上に座るかたちとなった麻衣だがそれを気にすることなくただひたすらに俺の左手ばかりを見ていた。時折自分の手のひらと見比べていた。


「ねぇ佳正さん。金星環ってどれ?」


彼女のその言葉に俺はさっきまで熱心にイヤフォンを両耳にニヤニヤとしていた恋人の姿を思い出した。


「なにしてんのかと思えばイワトビちゃんねる聞いてたの?麻衣」
「…うーん。ねえ、どれ?」


ねえ、と俺の腕を揺らす彼女に笑いながら麻衣の利き手の右手を掴んだ。もみじみたいなその白い手はすっぽりと俺の手におさまる。


「ここの中指と薬指の下にある半円みたいなやつ。んー、麻衣は1本綺麗だから魅力的でモテるんだねー」
「えーちゃんと見てよ。佳正さんでたらめ言ってる」
「ホントだって」


言うと少し不貞腐れたように左手を取って俺が教えたところをじーっと見つめた。そして手相をなぞるように指先で触れてきた。


「ほんとだーいっぱい線ある」
「なんか恥ずかしいから…」


信長くんとのときは恥ずかしくなかったのに麻衣にまじまじと見られるとどこか恥ずかしくて、手をそろりと引っ込めた。するとがばりと腕を抱きしめるかのように抱きついてきた。


「佳正さんってエッチなの?SでMなの?ドエロなの?スケベなの?」
「えっ?!いやっ!えっと、」


なんだ、と思う間もなくずいと近付けられた可愛らしい顔に変な汗をかきながら目を逸らした。


「どっちもいけるの?オールマイティなの?」
「あ、いやっ…その」
「変幻自在なの?フリースタイルなの?」
「麻衣ちゃん?!?」


いや、まあ…うん、ボソボソと零しながらバッと手で麻衣の口を押さえる。すると彼女はぷーっと頬を膨らませて、強引に俺へと抱きついてきた。そしてぐりぐりと額を押し当ててきた。


「満足してもらえてますか?わたし」


俺の胸に顔を埋めながらぼそりと言った言葉を聞き逃さなかった。ぽそぽそと零れる言葉はだんだんと小さくなって最後には聞こえなくなった。

俺のTシャツにしがみつく麻衣をなんとか剥がし、腰に手を回して引き寄せた。不安気に揺れる瞳に唇を寄せ、額にキスをした。


「そんな不安気な顔すんなって。大丈夫。不満なんてないから」
「…うん」
「ごめんな、そんなこと言わせて」
「…ううん」


ブンブンと首を振った麻衣はぴとりと身体を重ね、大きく息を吸い込むような行動をした。そしてスリと俺の身体の上を滑るように背中へと手を回してきた。


「佳正さん、プールとか海行くの禁止だよ…」
「ははっ、なんで?行こうよ」
「…水着の美女いるもん」


ギュッと俺を抱きしめる腕に力がこもった。それに答えるように背中をさすってやると、ふにゃりと麻衣の力が抜けた。


「なに?ヤキモチ?」
「……ダメですか?」


不貞腐れたような不満気な声がぼそりと聞こえた。てっきり否定的な言葉が聞こえると思ったんだけど…。麻衣の肩に手を置いて身体を離す。やっぱり不満気な顔をしていた。


「全然ダメじゃない」


俺がそう言うと少し口元を緩め、そろりと首に回る腕。少し上から俺の見下ろす麻衣に啄ばむようなキスをした。目を閉じてキスを受け入れる麻衣の頭に手を添えて、今度は深く口付ける。

新しい空気を求めて緩く唇の隙間から舌を滑りこませれば、やっと最近こたえてくれるようになって自分の舌も遠慮がちに絡めてくる。恐る恐るという表現が正しい麻衣を強引に絡めとる。それと同時に両耳を塞ぐように手を動かせば、身を捩るような動きをする。頭の中に水音が響いていることだろう。


「ん、ふっ…んぅっ!」


首に回していた腕が離れ、耳を塞ぐ俺の手を剥がそうとする麻衣。うっすらと目を開けると顔を真っ赤にさせて苦しそうに眉を歪ませる恋人の姿がそこにあった。ぞくりと何かが背中を駆け抜けた。お望み通りに耳から手を離してから、そのまま真っ白な太ももへと手を這わせた。



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