Voice
□年上の彼
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「『だから俺は…』……っと、なんだっけ。ごめんまた同じところから」
端正な顔をくしゃりと歪めて、ふわふわの髪をこれまたくしゃりと乱した。ソファに座る佳正さんと、ソファを背凭れにして座る私。
新しい台本貰った、と顔を緩ませて報告してくれたのが昨日の夜。そしてそのまま彼の家にお泊まりをして、今日。読み合わせ手伝ってくれない?と眉を下げて聞かれれば、二つ返事で答えるしかない。細谷さんは付き合わせてごめん、と困ったように笑い、前髪をふわりの撫でてくれる。
好きな人のためだなんて、イヤなはずがないのに。
「大丈夫です。少しでも佳正さんの力になれるのが嬉しいんです」
微力ですが、と笑えば優しく細められた瞳に見つめられる。それだけで胸の上のほうがきゅぅっと締め付けられる。自分は思っていたより乙女だ。
「台詞覚えるの苦手なんだよなぁ。ドラマCDとか一人のやつはすんなりなんだけど」
「そうなんですか?私は人との掛け合いのほうがリズムがあって好きですね」
台詞が多くて、と笑う彼に可愛いと思ってしまう。8歳年上の男性を可愛いなんておかしいんだろうか。私の手から抜き去った台本をパラリとめくって、パタンと瞳を閉じ、ふぅとひとつ息をついた。
「でもドラマCDにも掛け合いありますよね」
「なんか次だ次、とか思うと変に緊張しちゃって」
アニメのドラマCD特典のことを言っているのか、台本の表紙をさらりと撫でた。台本になりたい、だなんてやっぱりおかしい。
「でも一人のやつでも色気たっぷり的なのは緊張するな」
「佳正さんですもんね」
「なにそれ、どういう意味?」
ふわりと笑われ、こつんと額を小突かれる。お色気ムンムンの佳正さんないですもんね、とニヤリと笑えば、何故かふっ、と口角をあげた佳正さんがいた。…あれ。
「ないの?俺」
「へ…え、あの…」
ずい、と身を乗り出してきた佳正さんの様子がおかしい。瞳の奥がゆらりと揺れた。
「彼女にそう言われちゃ、俺も傷つくなぁ」
後ろからするりと首筋に指が這わせられ、肌を伝って顎をくい、と押し上げられる。つぅと親指で唇を撫でられ、ぞわりと身体が震えた。それを悟られたのか薄く笑われ軽く唇を奪われる。いつもはない妖艶な雰囲気に頭がクラクラする。
「試してみる?」
いつもより低く、だけど優しい声に胸が高鳴る。腕を伸ばして髪に手を差し込んで優しい撫でる。それと同じくして顎から頬に手が移り優しく包みこまれたかと思うと、深く口付けされた。
ぬるりと口内に滑り込む舌にぴくりと反応を示せば、もっとと言わんばかりに深くなる。うえを向かせられているため溺れている錯覚に陥る。息がし辛く、鼻から抜ける声と自分の乱れた呼吸に恥ずかしくなった。
ふわりとした浮遊感を感じたかと思うと背中にあたたかな温もり。後ろから抱きしめられているのに気付くまで時間はかからなかった。胸の前にまわる腕にそっと手を添わせて深く優しいキスに溺れた。