Voice

□メイソウするリンカク
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「ちょっ、麻衣…はやい!」
「だって気持ちいいよ!はやく!」


爽やかな風がさらりと流れ、木々たちをざわりと揺らした。木漏れ日からの陽射しに目を細めてあともう少し続く階段の先を見ると、肩にかかる髪を片手でおさえながら俺に笑顔を向ける彼女の姿。ざわざわ、と木々が擦れ合う音は俺の心をうつしているようだった。彼女は薄手のカーディガンをプロデューサー巻き…っていうと頬を膨らましていたっけ、そして真っ白なレース生地に淡い色の花が散りばめられたワンピースに身を包み、足元は歩きやすいように低いサンダル。俺のときよりもモデルらしいんじゃないか。そんなことを頭の隅で考えながら、よいしょ、と一歩を踏み出した。


「もー、佳正さんはやくー」


一人で先に行ってしまった麻衣にやっと追いつき、隣に並ぶとそう言われ少し首をすくめた。…だって俺、32だよ?麻衣は20代だから大丈夫かもしれないけどさ。そう呟くと隣にいた麻衣がピッと俺の前にならってにっこりと笑った。


「じゃあそんな佳正さんに優しい麻衣ちゃんが手を繋いであげますよ」


真っ白な小さな手が差し出された。そんな麻衣の様子を見て俺は、ふと笑ってしまった。


「繋ぎたいだけじゃないの?」
「佳正さんはイヤ?」
「全然」


俺も繋ぎたい、とその真っ白な小さな手を包み込めば彼女は照れ臭そうに笑い、くいっと俺の手を引いた。ホント、麻衣には敵わない。

ここは江の島。少し前にとある雑誌の撮影で訪れた場所だ。その時にすごくこの土地が気に入り、絶対に麻衣を連れて来ようと思っていた。それが叶った今、すごく幸せだ。俺の手を握りながら隣を歩く麻衣もそれは同じらしく、見ていて微笑ましい。


「来れてよかったな」


繋いだ手を大きく振りながら歩く彼女の姿に笑いを零しながらそう言うと、顔を上げた麻衣の頭をさらりと撫でた。嬉しそうに目を細めたかと思うと、すぐに眉を少し下げて笑った。


「お仕事大変なのにごめんなさい」


嬉しいと申し訳ないが入り混じったような笑顔に俺も眉を下げながら笑い返した。


「大丈夫だって、俺も来たかったんだから」
「私も佳正さんと来たかった」


ありがとう、と笑う麻衣。どういたしまして、と返すと同時に前方に真っ赤な鳥居が見えた。

江島神社だ。




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