Voice
□キスをしよう
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「キスしたい」
「…へっ?」
それはある休日だった。いつもよりどこかゆったりとした夜で私たちはお互いに寄り掛かるようにソファーに座り、佳正はテレビをぼんやりと眺め、私はお料理の本をパラリとめくっていた。
「な、なに?どうしたの?」
あ、美味しそうと思って見ていたページから目を離して上を見上げた。てっきりこっちを見てると思ったが佳正はテレビに目を向けていて、ほんとにボソリと独り言のように呟いたようだった。
「んーなんかな、したい」
テレビのリモコンを弄りながら言ったかと思うとソファーの上にポスンと置き、私へと向き直った。
「ま、まっ…待って!」
だんだんと近付いてくる佳正の顔に身を引くと少しむっとした表情になり、そのまま頬を包まれた。
「んっ、む…」
唇を挟み込むようなキスに身を捩れば頬にある手がスルリと頭の方へと滑り混んできて、ゆっくりと舌が割ってはいってきた。
「ん、ふ…っ」
口内を撫でるような動きに息が鼻から抜け、佳正の胸を押すように何回か叩いた。
「ふ、は……な、なに?」
チュという可愛らしいリップ音とともに離れた唇だが距離は近くて言葉を発したら触れてしまいそうだった。真近で見る佳正の瞳はどこか撃ち抜かれるような、そんな気がした。
「明日ドラマCDでキスするところあるな、って思ったら…したくなった」
「う、うん?」
佳正はたまに不思議なことを言う。だからふわふわなんて言われるのかな。
でもこんな風にキスをされるの久しぶりで、胸の高鳴りが止まらなかった。
「…ね、もう一回」
「え、…んっ」
いつも聞くお仕事の声とはまたちがって、低くて少し掠れていて吐息交じりなその声に私はそっと目を閉じた。