Voice
□リアル
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『ホームに電車が参ります』
軽やかな音楽と共にお姉さんのきれいな声がそう告げた。…この声の人声優向きだよね。うんうん、と頷きながら電車が来るのを待っていた。
ホームには出勤する男性、女性が溢れかえっていた。毎日のことながら人の多さにげっそりとする。もう車にしようかな。その前に免許だよね。免許とれる自信ないなぁ。なんて思いながら、携帯で免許のことを調べようとしたとき、肩にポンと重さがかかった。
肩を叩かれたのだから振り向かない訳にはいかない。『自動車 免許』と打ったあと、くるりと首だけを使って振り返った。
「…!ええっ!」
サラリーマンか、おばあちゃんを想像していた私は振り返って、そこに立っていた人を見るなりおおきな声をあげてしまった。
「なに?ひどくね?」
その人は、ははっ、と笑いながら私の頭をポンポンと少し強めに叩いた。
「だ、だって!達央さんがいると思いませんよ!」
そう。私の肩を叩いたのは同じ声優で、絶賛片想い中の鈴木達央さんだった。被っていた帽子を鞄に引っ掛けて、そう?と笑っていた。
…なんで?なんで?!
私変な格好してない?!
慌てて自分の身なりを確認してから隣に立った達央さんを見上げた。
「…えと、あの…なんで電車…」
「ん?たまにはいいかなーって」
しっかし人多いな、と辺りを見渡しながら言った。…いやもう人の多さには驚かないです。達央さんがいたことに驚きですよ。
「麻衣はいつもこの電車?」
ホームに電車が到着して、達央さんと並んで電車に乗り込みながらそう聞かれて、はいと返事をした。
「へー人混み大変だな」
達央さんのその言葉の通り電車の中は人で溢れかえっており、目の前におられるサラリーマンの方に今にでも潰されそうだ。
「もう慣れました、よ…ぐぇ」
横にいる達央さんにそう返したとき、電車が発進した。その動きでサラリーマンにつぶされた。←
達央さんの前でなんて声!
私これでも声優なのに!
「お、お前大丈夫かよ」
達央さんは苦笑いをしながら手を引っ張ってくれた。優しいな、と感動しながらやっとのことでサラリーマンさんの間から抜け出すことができた。
「お前身長小さいから大変だろ」
「いや平均ですよ。男性の皆様が高いのです」
…ほんと。今日に限って周りはサラリーマンの方ばっかり。いつもなら女性の方が多いのにな。
はあ、と目の前のサラリーマンさんの鞄を睨みつけながらため息をついた。
「ほんと危ないからもうちょっとこっち来い」
そんなイケメンボイスとイケメンセリフと共に達央さんに腕を引っ張られた。