Voice

□春望
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「わー寒い!」


わーと声をあげて俺の少し前を歩く彼女。今日は久しぶりに被ったオフの日。彼女は俺より5つ年下の花屋で働く女性。俺がとあるイベントに出させていただいたときにお花を持ってきてくれたのが麻衣。自分の顔より遥かに大きい花を抱えて、その花に負けない笑顔で。一目惚れだった。



「春はまだまだですねー」


そんな麻衣はそう言って、この前も雪降りましたしーと続けた。そして手が冷たいのかハーっと息を吹きかけていた。


「でももう3月だぞ」
「でも寒いですもーん」


寒い寒いー、と言いながらくるりと一回転。その様子を少し後ろから眺めていて、顔が緩むのを感じた。


「寒いなら、ほら」


ポケットにいれていた片手を出して差し出した。すると、えっ、と振り返ってその手の意味を理解したのか口ごもりながらマフラーへと顔を埋めた。

俺だって恥ずかしいんだから!

そろりと手は出すものの俺の手までは程遠い。その恥ずかしさに耐えられなくなった俺は自分から麻衣の手を掴んだ。ピクリと反応した麻衣はマフラーから大きな瞳だけを出してこちらを見た。

フッと笑みを零すと麻衣もそれにつられるようにマフラーからもそもそと顔を出してにひ、と笑った。麻衣の鼻は赤くて寒いんだな、と思って手を引いて早くお店に入ろうと足を進めた。


「佳正さん!佳正さん!」


どこがいいかなあ、と近くのお店を思い浮かべていると手を繋いで隣を歩く麻衣が俺を呼んだ。ん?と顔を向ければ、あのですねー、とニコニコとしながら言った。


「あったかい」


とびきりの笑顔でそう言った。



花のように咲くその笑顔は俺に春を思わせて、笑みを零した。春になったらお花見に行こう。俺は唐突にそう思って、小さな手をギュッと握った。




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