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□弱みと甘え
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部屋に入るとそこは薄暗くて、すーすーという寝息だけが聞こえていた。テーブルの上にはお盆に乗った小さな土鍋が蓋をして置いてあった。お椀も裏返してあり、木のスプーンも汚れてはいなかった。まさか、と思って蓋を開けると冷めきったおかゆがそこにはあった。蓋を戻して、ベッドへと近付いた。すーすーという寝息と共に盛り上がった布団が上下を繰り返す。


「…なまえ」


起こすのはダメか、と思いながらも飯も食べていないとなると心配で、ポンと布団の上から手を置いた。すると、眠りが浅かったのかすぐに目を開けてぼんやりと当たりを見渡すなまえの姿があった。


「なまえ?わかるか?」
「…日向、君?」
「あぁ、俺だよ。大丈夫か?」


潤んだ瞳で俺をとらえて布団の中から篭った声が聞こえる。髪は汗で額に張り付いていて、熱冷ましシートはもう役割を果たしていなかった。そしてなまえはゆっくりと俺に手を伸ばしてきた。その手が俺に届く前に掴んで布団へとおろした。その掴んだ手があまりにも熱くて、心配になった。


「大丈夫か、なまえ」
「…日向君の、夢…」


にへら、と真っ赤な顔を緩ませてなまえは笑った。俺は何のことかわからずに、頬にへと手を移した。すると、首元の方で手にコツンと当たる硬いものがあった。なんだ?と思って掴むと、それは携帯だった。画面の一番上に『未送信メール』とあり、そのメールの差出人には俺の名前がずらりと並んでいた。


【風邪引いたから休みます。ごめんね、日向君。】

【熱が下がらないよ。日向君に会いたかったな。】

【会いたい。風邪引くと弱るのかな。】

【日向君、】


バッとなまえの顔を見るとまだにへら、と笑ったままだった。なんで全部未送信なんだ。なんでもいい。一言でも送ってくれたら学校なんて飛んできたのに。手をギュッと握ると、なまえはへへ、と弱々しく笑った。


「…会いたくて、会いたくて…、夢にまで見ちゃうんだね…」
「夢じゃねーよ!いるよ、ここに」
「…会いたかっ、た…」


なまえはまた笑うと目尻からすーっと一筋の涙を流した。その涙を拭って頬に手を置いた。


「なんでメールしねぇんだ。すぐ来たのに」
「だって…風邪、移したくないし…迷惑、」
「迷惑なわけないだろ。風邪の時ぐらい甘えろよ」


な?と、また流れた涙を拭った。するとなまえはいい夢、と瞼を下ろした。もう夢でもなんでもいい。こうやって会えたんだから。…言って欲しかったけど。


「今度から連絡しろよ」
「…うん」
「甘えろよ」
「…う、ん」
「心配かけるなよ」
「……ん」


だんだんと眠りに落ちてゆくなまえがよくわかった。必死に俺に答えるなまえが可愛くて少し笑ってしまった。


「…ひゅ、が…く」
「なに?」
「……す、き」


なまえはそう言うと、またすーすーと寝息をたてて寝てしまった。今度は落ち着いた表情で、俺の手をギュッと握って。


「俺も好きだ」


起きていないなまえに向かってそう言い、額にキスをひとつ落とした。




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