ながい。&ながいぱろでぃ。
□Hot Blood Tea.@
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車一台も通らない薄暗い山の中の道路。
その真ん中を堂々と歩いていく。
誰にも邪魔されず、
誰にも怒鳴られることもない、
とにかく静かなこの道を、1人の青年が歩いていく。
彼の名は“イーシン”…
だったが、
彼はこの名を10年前に捨てた。
今の彼の名は“レイ”…
やっと人生を変えるチャンスを掴んだ、
【逃亡者】だ。
大人の都合で家族も、友達も、勉強も、恋も、
ひとつ残らず取り上げられてしまった彼の過去。
その過去を捨てるために彼は必死に努力した。
時には危ない橋も渡ったことも少なくはない。
そして、今回のチャンス。
ゆっくりと彼の人生が変わっていく。
徐々に見えてくる目的地に、レイの心は満ちていった。
『…ここ…か。』
3メートルは大いにありそうな門の前でもう一度地図を確認した。
間違ってはいないようだ。
『後悔は…してない…』
自分に言い聞かせるようにレイは呟いた。
そして門に手をかけようとすると、門が勝手に動き開きだした。
一瞬驚いたが、レイは迷わず前に進む。
『このくらい、普通なんだろ?』
苦笑しつつ、地図と一緒に持っていた一枚の紙を見る。
≪優秀な住み込み専門医募集≫
そんな見出しの新聞の広告のコピーだ。
そこまではまだ問題ない。
問題は、その後だ。
≪吸血鬼を癒す仕事。安易に引き受けないこと。覚悟が足りない場合は血をいただく。≫
これが募集する時の文章だろうか。
誰もが馬鹿馬鹿しいと、無視し続けてきたこの広告。
しかし、レイには違って見えた。
ここで何か発見できるかもしれないと。
ここなら自分の秘密を解いてくれるのでわないかと。
『……やってやるよ。』
レイは、目の前に現れたいかにも中世のお城のような建物を見上げ、誓った。