オリジナル・単発もの
□SENGOKU PARALLEL WORLD GAME ※
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★TRIP★
男の中の男、誰よりもかっこよく理想の男は某テレビゲームの織田信長だと公言して憚らないのは、祖父は元警視総監、父は敏腕検事として活躍中――そんなエリート一家『斉藤家』のひとり娘である蝶子(ちょうこ)16歳だ。
蝶子が信長に惚れ込んだのは小学6年生のとき。
真剣を使う剣術に剣道、空手と武術系の習い事ばかり好んでやっていた蝶子は、「男以上に男気溢れる」と小学5年生の時点で言われてしまうほど隙なく凛々しく育った。
そんなあまりにも子どもらしさも可愛らしさも皆無な娘に、見た目は決して悪くない、むしろ上等と言える美しい容姿をしているのに残念すぎると、せめて子どもらしさだけでも身に付けばと思った父が散々悩み、てこずり、迷走した結果、何とかたどり着いた『蝶子の好奇心を擽る子どもらしい遊び』――それが大人気の戦国時代を舞台にした歴史シュミレーションゲームだった。
ビジュアルの美しさもさることながら、自分の選択によって世界を動かすことのできるそのゲームに蝶子はすっかりはまってしまった。
特に織田信長はシミュレーションゲームのタイトルになっていることもあり好んで使っていたキャラだ。
習ったり調べたりした歴史から膨らんだイメージを元に、自分だけの破天荒で強気の信長を育て、天下統一を目指すのはとても爽快だった。
ゲーム歴が長くなるほどに信長への愛着がわき、いつの間にかそれは恋心に近い感情になっていた。
しかしそれはあくまでもゲームの中のデザイナーが作った、そして蝶子がプレイする『織田信長』に対しての愛情で。
恐ろしく整った美形顔も、逞しくも美しい体躯も、凛々しく洗練された甲冑姿も、破天荒な性格も・・・・すべてがゲームの中の幻想の産物――
そんな二次元の男にしか興味を示さない立派なゲーム&武術オタクの蝶子を、友人たちは口をそろえて「残念すぎる美人」と評している。
凛々しく近寄りがたさのある美貌・・・・でも時折見せる笑顔は意外と幼く、そのギャップがたまらず誰をも魅了する。
日々鍛えて引き締まった美しいスタイルに、テストをすれば必ず上位に入ってくる賢さも持ちながら、才色兼備によくありがちな高飛車なところや上から目線なところはない。
名家の娘らしい社交性をちゃんと持ち合わせており、曲がったことが嫌いで正義感も強め、間違い等をずばり指摘する気の強さも確かにあるが、その分裏表がなく、さっぱりした性格・・・・そんな質(タチ)のお陰でみんなからの信頼もあつく、何かと頼りにされることも多い・・・・が本人はそういった他人の目や評価に関心がない。
しかも回りからは常に余裕でニュートラル状態に見えているその落ち着いた姿も実情はゲームのことしか考えていないという残念さ。
そんな生粋(?)のオタクな蝶子だが、そう認識されていながらも性格や見た目のせいで意外とモテる。
当の本人はまったくそういったことを気にしていないし、興味もないのだが――
蝶子は男に関心がない。
もっと正確にいうなら『男』が嫌いだ。
だから必要以上にかかわろうとはしないし、関心を持たれるのも不快なくらい。
周りでは恋人を持つ友人が増えていく中、まったくといっていいほど恋に無縁で無関心。
男のことを考えて気分を害するくらいなら信長のシミュレーションゲームの新たな攻略法を考えているほうが楽しいに決まっているし、デートで無駄な時間を過ごすくらいなら習い事に打ち込んでいるほうがどれほど有意義な時間がすごせるかと思っている。
どうして蝶子が男とそれほど距離を持とうとするのか・・・・それは蝶子と家族の関係が大いに影響していた。
蝶子の父と母は学生時代からずっと男女の壁を越えた大親友だった。
それぞれ恋人もおり、恋人ぐるみで仲が良かった。
社会人になってもその関係は続いていたが、結婚の話題がそれぞれに持ち上がり始めると、なんとお互いの恋人がふたりで駆け落ちをしてしまった。
蝶子の両親は深く傷つきお互いを慰めているうちにそれを恋愛と勘違いして、回りにせっつかれるまま結婚してしまった。
が――結婚してすぐ、お互いに求めるものが違うことに気づいた。
しかし離婚など出来なかった。
斉藤家は歴史の古い家柄で、遡れば武家というなかなかの血筋。
プライドももちろん高い。
だからこそ『離婚』などという『間違い』が許されず、跡継ぎということにもかなり重きを置かれていた。
しかし蝶子の両親はお互い親友以上にはなれないと気づいてからは体の関係を持たなかった。
当然子宝にも恵まれず・・・・
もちろん二人は一族から相当のプレッシャーを受けた。
それでもお互いの気持ちは誤魔化せないし、無理して体を繋げて二人の関係が破綻してしまうくらいなら圧力に耐える方がマシと拒否していた。
互いの心を大切にできる関係・・・・そういう意味では確かに愛し合っているといえなくはなかったが、それは家族愛とか兄弟愛に限りなく近いもので、恋愛や夫婦愛とは重なることはなかった。
しかしやけに団結力の強い斉藤家の一同は黙っておらず、時代錯誤としか言えない妾まで用意すると騒ぎ出してしまった。
増すばかりのプレッシャーと圧力、終わらない苦言や非難・・・・それは決して交わらないと固く心に決めていた二人を確実に追い込み、疲弊させていき・・・・とうとう心が折られてしまった。
消耗しきった二人は限界状態で。
まともな精神状態ではない中、なんとかひとつの方法を思い付いた。
不妊治療の体外受精。
体の関係は持たず妊娠するという、追い込まれた二人にとっては最善で最後の手段だった。
本来は愛し合う夫婦に子供ができない場合に受けることのできる医療行為――でも蝶子の両親はそういうしがらみから抜け出すための手段として、不純な動機で治療を受けてしまった。
そして蝶子は生まれた。
たった一人、斉藤家の跡取りとして。
一時はギクシャクした親族と両親の関係も蝶子が生まれたことで良好な関係に戻ることができた。
両親も互いのことは親友としてそれ以上も以下もなく普通の夫婦に比べれば淡白な関係であったが、蝶子には愛情を注いでかわいがってくれていたし、蝶子自身も父母はもちろん祖父も祖母も時々会う一族の面々も大好きだった。
だからそんな事実があっても「知らなければ」蝶子も心に影を作らなかったのかもしれない。
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