オリジナル・シリーズ 『余韻』
□共鳴 (※)
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派遣業が非常に厳しいご時勢の中、私は契約が更新となった。
オペレーション業務やSE関係は専門職ということもあり、更新率が高い。
最近はオペレーション業務よりシステムエンジニアとしての業務が多かった私に対し、会社側も更新にまったくのためらいがなくありがたかった。
おかげで最初の契約期間が終了しても、また蓮と同じ会社で働けることになり。
私は安堵のため息をついた。
「花村さん!!」
呼ばれて振り返ると、満面の笑顔の久保村昇(くぼむら のぼる)がそこにいた。
彼は私より1ヶ月後に入ってきた派遣社員。新規システム開発のために契約された派遣社員の一人で。
人懐っこいおかげですぐに部内に溶け込み、私以上に馴染んでいる。
私は割りと人見知りなほうで、こんな風になつっこくこられると若干引いてしまうのだけど、そんなことお構いなしに久保村さんはいつも話しかけてくる。
「今日さ、開発グループのみんなで飲みに行くんだけど・・・・花村さんも最近こっちの仕事が多いし一緒に行かない?」
勢いよく誘われ、私は戸惑う。
システム開発のグループのみんなは久保村さんタイプばかりで、一緒にいると疲れるからいつも断っているのに。
それでも誘ってくる久保村さんの遠慮のなさに辟易ぎみの私。
「ごめんなさい。用事があるから」
「も〜、いっつもそんなこと言って、ちっとも誘いにのってくれないじゃん!!」
男の人なのにかわいらしいとみんなに言われる久保村さん。仕草が小動物のようなんだって。今私の目の前でも上目使いで、頬を膨らませ私を見ているのだけど・・・・私としては可愛いとかそんなことを思う以前に、とっても困った人という認識しかなくて。
「花村さん」
静かな声が私を呼んだ。
その声に私は心底安堵する。
「はい」
少し声が明るくなったのはしょうがない。だって相手は蓮だから。
「ちょっと今日の打ち合わせの資料見直してくれる?」
手渡された資料。
一番上に小さな付箋。
『ぜったい行くなよ』
たった一言だけど、うれしくて。
私はなんなり笑う。
そんな私を久保村さんが目を細め、もの言いたげに見ていたのに気づかずに、蓮の資料を抱え席に戻った。
蓮の資料は完璧で。
見直すような場所もなくて。
ただ私を助けるための口実。
そんなちょっとした仕草や優しさ、心使いがどれほどうれしいか、蓮は気づいているだろうか?
恋愛初心者、経験値なし状態の私にとって、こんな些細なことでも泣きたくなるほど幸せを感じる。
ホンワカ温かな気分で、蓮の不在となったデスクに、蓮がつけたのと同じサイズの付箋をつけて資料を返した。
『ありがとうございました』
小さな字で、他の人が誤って見てしまっても気にならない程度にたった一言を書き添えて。
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