オリジナル・シリーズ 『余韻』

□余韻 (※)
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 新規派遣先は出版会社のオペレーション業務とのこと。今日は初日で、上司と挨拶を済ませ早速、勤務場所のフロアへ行く。

 派遣先は「派遣社員」に慣れているから、型どおりの挨拶を済ませれば、すぐに仕事に移る。






 エレベーターを降り、勤務室に案内される。

 鉄の扉がこの会社のスマートな外観とはあまりにもかけ離れた印象を与え、正直不安を抱いた。

 いったいこれからどんな世界に入ってしまうのだろうと。






 ドアが開くと、広いフロアに数十人のオペレーターがパソコンに向かい黙々と作業をしていた。清潔感があり、青い絨毯が印象的だ。

 真正面には、パソコン用デスクとは明らかに違う立派な席があり、ちょっとインテリなおじ様が座っていた。






 私が室内に入っても、誰も気に留めない。そのくらい人の出入りが激しい。こういう業種にはよくあることで、派遣社員が月単位で入れ替わるのも珍しくない。







「あの人がここの部長ね」







 ここまで案内してくれた人事部の社員が真正面のおじ様をさした。

 部長のところへ行き、丁寧に挨拶をすると、途中で遮るように部長が挨拶をした。

 せっかちな人。人の話をあまり聞かないタイプ。






「それじゃあ、みんなに紹介するから」






 この部長、立つととても背が高い。






「皆さん今日からこちらに来ていただくことになりました花村千尋さんです」






 そう紹介され、急にみんなの視線を集めてしまいばつの悪い感じだ。







「よろしくお願いします」






 数人は軽くお辞儀をしたけど、ほとんどの人は興味もなさそうに私を見ていた。そしてすぐに仕事に戻ってしまった。







「それじゃあ、あとは彼に聞いて。楠原くん」







 呼ばれてこちらを見た人・・・







 全身が凍りつく。

 どうして彼がここにいるの?

 こちらに近づいてくる彼が妙にスローに見えた。視線が絡み、慌ててそらす。








 そんな・・・

 






 動揺して思考がうまく動かない。

 私は――彼を知っていた。

 忘れたくても忘れられない、私の心臓にとげを残した人。







 ―― 楠原蓮 ――







 思い出したくないものは、永遠に心にくすぶり続けている・・・











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