それは甘い20題
□04.おはよう
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目が覚めた時、後ろから自分に回された誰かの腕を感じて私はドキリした。そしてそれが誰のものか理解したと共に昨晩の事を思い出して頬が緩む。
窓を見れば間もなく夜が明ける頃。
キッチンの簡易ベッドで、私はサンジさんの腕の中にいた。
首筋にサンジさんの静かな寝息を感じて、私は彼を起こさないようにそっと寝返りをうった。
「…良く寝てる。」
向かい合ってサンジさんの寝顔を観察した。髪の色より少し濃い影を落とす伏せた睫毛も無防備に薄く開いた唇も少し伸びたあご髭も、全てが愛おしくて私は自然と笑顔になった。
さらさらと額にかかる前髪にそっと手を伸ばして撫でようとした時、その手はパッと捕まえられた。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、起きてた。」
サンジさんはニッと笑って捕まえた手にキスをした。
それから回した腕に力をいれて私を抱き寄せる。
「おはようリリス。」
「お、おはよう、サンジ…さん。」
見つめられたままの挨拶。恥ずかしくて視線を逸らしたら、あたたかい手が私の頬を捕まえた。
「あ、もう約束忘れたな。」
「わ、忘れてな…。」
「じゃあ、はい。」
昨晩サンジさんの腕の中で、私は「さん」を付けないで彼を呼ぶ事を約束させられていた。そして彼も私をリリスと呼ぶと。
忘れてはいなかったのだけれど何だか恥ずかしくて、私は小さな声で彼の名前を読んだ。
「…サンジ。」
「なんだいリリス?」
満足そうににっこりする彼は私をぎゅっと抱き締めた。寄せた額に頬ずりしながら甘えた声でサンジが呟いた。
「あ〜、毎朝一番にリリスにおはようって言いたいぜ。」
「え、いつも言ってるでしょ?」
この船で一番早起きは間違いなくサンジ。そして大概次に起きるのは私。
朝一番にキッチンで、私たちは挨拶を交わしていたはずだった。
「そうじゃなくて。
毎朝目が覚めた時に最初にリリスを見たいって事。今日みたいにさ。」
拗ねたような声に見上げたら、薄い唇を少し尖らせているサンジと目が合った。宥めるようにその唇にちゅっとキスをする。
「時々ね。毎日じゃナミさんに怒られるわ、きっと。」
「…違いねぇ。」
くすくすと笑いあってどちらからともなく唇が触れ合った。次第に深くなるキス。私の頬を撫でていた手がするりと胸元に降りてきて、慌てて私はその手を押し返した。
「ゃ、だめ。もう起きないと。」
「ん…まだ大丈夫。もう少し…。」
にっこり笑うサンジに組み敷かれて、私の思考は甘く蕩けて行った。
あなたに一番のおはようを。
明日も、明後日も、ずっとずっと。
→あとがき