眠れる森

□2.もう一度
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初めは二度と会うつもりなんてなかった。
けれど足は自然とヒカリの家へと向かっていく。



皆が寝静まった夜更け。
ヒカリのことを誰にも知られないように、フェイタンはそっとアジトを抜け出す。

死なない能力を持つ女など、団員の何人かは確実に興味を持つだろう。
自分の見つけた獲物を横取りされるような気持ちなのか。
ヒカリに近づかれるという想像をすると、何故か不愉快に胸の奥が騒ぐ。

ヒカリのことは自分だけの秘密にしておきたくて、隠れるように彼女の元へと急いだ。

昨日と変わらぬ曇り空。
足元を照らす、街灯の光を頼りに進んでいく。


「来てくれたんだ」
ノックをする前からヒカリはフェイタンの気配に気付いたのか、静かに玄関を開けてきた。

「コーヒーでも飲む?
それともアルコールがいいかな?」
自分はコーヒーを入れつつ、冷蔵庫の中を物色する。
「コーヒーでいいね」
昨日抱いて、そして殺そうとした。
そんなことなどまるで夢だったかのように、彼女は何ともない顔で笑いかけてくる。

テーブルの上にマグカップが並べられ、コーヒーの香りが充満する。
これが普通の男女であれば、飲み終えた後に、昨日の続きでも行われるのだろう。

「ね、今日は何で来てくれたの?」
形のいい唇が、柔らかい笑顔を作る。
「別に…
抱きに来たわけでも、殺しに来たわけでもないね」
「ただ会いに来てくれたってこと?」

フェイタンの顔をのぞき込むヒカリの長い黒髪がさらりと肩から流れた。

その真っ黒な瞳に、微かに口角の上がったフェイタンの顔が映りこむ。

「ワタシはお前自身に興味が湧いたね」
その力も。
流れる黒髪に、綺麗な瞳。
そして嬉しそうな、寂しそうな笑顔も。

フェイタンはヒカリの髪をそっとすくい上げて、その毛先に指を通した。
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