水色ガールフレンド
□02.恋が知れ渡った
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怖くて、苦手で、いつも一人が好きな人だと思っていた。
きっかけは、自分のことは後回しにして治療を待っている姿を見たとき。
本当は優しい人なのかもしれないと思った。
彼のぶっきらぼうな言葉や態度に隠れていたものが、垣間見えてきた気がする。
本当のフェイタンは…。
「シオリ」
名前を呼ばれて、目の前のフェイタンと視線が合う。
「フェイタン?」
その細い目は、いつもより熱を帯びて、見ているだけで心臓が早くなってしまいそうだ。
男の人にそんな目で見つめられたことが無くて、視線をそらしたかったけれど、まるで金縛りにあったように動かせない。
「ワタシは一度手に入れたら、手放す気は無いね。
覚悟しておくよ」
そう言いながら、フェイタンは私の方へ近づいてくる。離れていた体は気がつけば、肩と足が触れていた。
フェイタンの冷たい手のひらが、そっと私の左頬に添えられる。
え…え…これはまさか。
私の思考が追いつくより先に、フェイタンの顔が近づいてくる。
キスされる!!
心臓の音が体中に響いて、手は汗ばんでいるのが分かる。
体が固まってしまって、抵抗のつもりか私はギュッと目を閉じた。
時間にしてほんの数秒後、フッと息が漏れるような微かな笑い声が聞こえた。
そして、右頬に一瞬だけ触れたフェイタンの唇。
柔らかい…緊張していたくせに、そんなことを思った。
「今はまだ、これだけでいいね」
優しく笑ったフェイタンはそう言って、私の体から離れた。
きっと今の自分の顔は真っ赤で、情けない顔をしているに違いない。
「そろそろ仕事だから行くね」
フェイタンは立ち上がって、何事も無かったように私の部屋からあっさり去っていった。
一人残された私は、誰もいないのに真っ赤な顔を隠すようにクッションへ顔を押し付けた。
まだ心臓は早鐘を打っている。
…言えなかった。
フェイタンとは付き合えないって伝えるはずだったのに。
ううん、私は言わなかったんだ。
だって私はもっとフェイタンを知りたいって思ってしまっている。
昔見たドラマを思い出す。
お互い片思いの末に、ラストで告白をしてハッピーエンド。
それが恋愛ってものだと思ってた。
恋人同士の関係から始まる恋。
フェイタン…
私、好きになっちゃいそうだよ。
フェイタンの唇の感触が残る頬へと、自分の手を重ねる。
「ほっぺた、熱い…」
誰もいない部屋に響く、独り言。