「おはようございます、リヴァイ兵長」

「……ああ」

「今朝はクロワッサンを焼いてみたんですが、召し上がりますか?」

「…………」

「コーヒーとご一緒にどうぞ」


ことり、テーブルの上に三日月形したクロワッサンが乗った皿と、湯気を立てているコーヒーカップを置いて、微笑とともに一礼し部屋を出ていく。

相変わらず人の心を見透かしたようなやつだな、と思いつつも俺は、必要以上に喋らなくても話が通じることに心地好さを感じていた。

普段は朝飯を食う習慣がない俺だが、たまには食欲をそそられることもある。

焼きたてのパン、なんていうのはその典型的な例だ。
あまり量は食わないが、コーヒーや紅茶の一杯と合わせられるものを好む。


(…………、美味い……)


ほかほかと温かいクロワッサンはとてもよくバターが薫るのに、口に入れても油っぽさがほとんど感じられずくせがない。
中はものすごくふわふわとしていても、ちゃんと質量があって食べやすい。

何より気に入ったのは噛みきりやすさで、さくさくとした外皮は一度噛み合わせるだけで面白いほどよく切れた。

あまりパンくずも散ることがなく、食べ終わった後の皿の上はとても綺麗だった。

やがてコーヒーも飲み終えたころ、こんこん、と部屋のドアがタイミングよくノックされ、リヴァイは入室を促す。


「ご満足いただけました?」

「ああ、…美味かった」

「それは良かったです」


かちゃかちゃと、持ってきたトレイに皿を乗せているのを眺めながらリヴァイはぼそりと呟いた。


「……、今度……、また食いてえんだが」


――すると皿を片付ける手がぴたりと止まり、驚いたような目がリヴァイに向けられたかと思うと、次の瞬間には満面の笑みが湛えられていて、はい、と嬉しそうな返事が聞こえた。

そのあまりに嬉しそうな顔を見てリヴァイは面食らい、言葉を詰まらせる。

やがて、トレイを再び手にして部屋を出ようとする時、


「…今日のクロワッサン、兵長のためだけの特別レシピにしますね」


――振り返ってそう言った彼女の笑顔に、リヴァイは自分の鼓動が大きく跳ねたのを感じた。








人類最強とコック長







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