ONEPEACE 夢小説文
□その声でオレの名を
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町に出てすぐ、探していた後ろ姿を見つけ、買い物をするミシェルに大人しく付いて行く。
見覚えのある路地を曲がったところで、おれはミシェルに声を掛けた。
「帰るのか?」
『…そうですね…お酒はまだ在庫があるし…』
「そうか…なら、この後、付き合え…」
少し考える素振りを見せたミシェルに言い、その手を掴み、今歩いて来たばかりの道を引き返す。
『えッ、あの!!船長さん…!?』
その間中、おれに抗議するミシェルだが、それよりも気になることがあった。
『…船長さん!!一体どこに…?』
…そう、呼び方だ…店主は兎も角、シャチやペンギンもさん付けだが名前で呼ばれていたし、ベポに至っては、敬語すらない…
なのにおれを呼ぶ時は“船長さん”と、名前を呼ばない…それともミシェルはおれの名を知らないのか…
『ねぇってば!!船長さ…』
「ローだ…!!」
そう言えば名乗っていなかったかもしれないと考え、ミシェルの言葉を遮った。
『え?』
「おれの名前だ。“船長さん”は止めろ…」
しかし、急だったせいか、おれの言ったことが分かっていないであろうミシェルに、言葉を足した。
『船長さんには悪いけど…私は……ッ!?』
俯いて言いかけたミシェル…悩んでるのか?
そう思って顔を近づけた所で、ミシェルがいきなり顔を上げた。
おれも驚いたが、ミシェルも余程、驚いたのだろう、顔を真っ赤にし、慌てて後ろに下がった…。
しかし、ここは細い路地…壁に背を当て、逃げ場を失ったミシェルに、加虐心が疼いた。
「聞こえなかったのか?」
『…ッ…//』
ミシェルの顔の横の壁に手を付き、逃げ道を塞ぐ…そして、わざと耳に息が掛かるよう囁いてやる。
更に顔を赤くし、視線を逸らすように下を向くミシェルの顎を捉え、それを許さない。
「…おれの名を呼べ」
真っ直ぐにミシェルを見つめ、ゆっくりと顔を近づけた。
会って日は浅いが、ミシェルの顔をこんなにまじまじと見たのは初めてだな…
赤く染まった頬は白い肌のせいで更に際立ち、薄い唇は程よくピンクに色づいている。
緊張から揺らぐその瞳は、澄んだ緋色で、少し垂れたそれを長い睫毛が縁取る。
少し幼い顔立ちではあるが、可愛い顔をしている…。
『……ろ、ッ…ロー…!』
ミシェルに見惚れていたおれは、不意に鼓膜を震わせた小さな声に、意識を戻された。
…確かに聞こえた…ミシェルの口から出た、自らの名に、おれは口角が上がるのが分かった。
「声は小せェが…まァいいだろう…これからは敬語も使うなよ…?」
壁から手を離し、解放してやりながら言うおれに、ミシェルはコクコクと何度も頷いていた。