short novel
□季節を越えても
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おれの心の大半を占める。
“アイツ”との出会いから半年。
乾いた風と共に、遅咲きのセミが“ひとり”鳴く季節。
今日も“アイツ”の部屋の中から聞こえる、女とも男とも判別がつかない甲高い嬌声と、中で行われている行為を想像させる生々しい水音。
またか――と。
俺は部屋の扉の前で“ひとり”立ち竦む。
「……ねぇ」
チクりとする胸の痛みと共に、浮気を繰り返す“アイツ”に、ドア越しに小さく問い掛ける。
「今日、おれがここに来る事を知ってて…しているの?」
聞こえないのは分かっていながら。
「もう、おれの事なんて、どうでもよくなったのかな?」
問い掛けずにはいられなかった。
「あんなに…毎日。愛してるって言ってくれたのは…嘘だったの?」
出会った頃…幾度も囁かれた愛の言葉。
今…その言葉をおれではない。
違う相手の耳元で“アイツ”は囁いている。
「なら、おれがいなくなっても、平気なんだ…よ…な?」
震える手で、携帯電話を開いたおれ。
チャリと鳴る音に視線を落とすと。
“アイツ”とお揃いで買った、イニシャルの刻まれた携帯ストラップが、おれの気持ちを表すように、ゆらゆら揺れ動いていた。