short novel
□キミしか見えなくて
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いつも視線が合う…気がする。
登校途中の道。
下駄箱。
廊下。
学食。
放課後の帰り道。
高校入学と同時に感じるようになった、その視線。
それはウチの男子高では有名な、人気者のワンコからの視線だった。
ワンコといってもホントの犬ではなく。
勿論…人間。
オス。
俺よりひとつ上の先輩。
はちみつ色の明るい髪の毛と瞳、長身でカワ綺麗系ともて囃されるそのワンコ。
いや…高知 智弘先輩は、その人懐っこさからワンコと親しみを込めて呼ばれる、とても人気のある先輩だった。
(そんな先輩が、なんで…俺を見るんだろう?)
ごくごく普通の学生である、俺…田中 冬馬。
人気者である先輩との接点はなかった…はず。
――ん?
いや、一回だけあったっけ。
たしかアレは入学して間もない頃。
選択授業で…別教室に移動していた時だ。
階段の踊り場で蹲る茶色い塊がいた。
え? 何??
と立ち止まった俺。
よ〜く見てみると。
毛羽立ちデロデロになった、茶色い毛布を被って震えるワンコ――高知先輩だった。