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□マラソン
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「はぁ…っ」

やっぱり皆は速く、半分位過ぎたところで私は取り残された。
予想以上に辛くてお腹が痛い。
歩くと余計に辛くなると分かっているのに、つい歩いてしまう。
後ろで走っていた風丸先生は息一つ乱れていなくて、直ぐに私に追いついた。

「歩くと余計疲れるぞ?」
「…ちょっとだけだから歩かせてください……先生は先に行ってください」
「仕方ないな…」

そう言って、風丸先生は私を抜いて走るかと思った。
しかし歩きだしたのだ。

「あー、良い天気だな」
「風丸先生…良いんですか?」
「何がだ?」
「先生まで歩いて。まだ余裕でしょう?」
「まあ…確かに余裕だけど、名字が放っておけないからな」
「なっ…」

にっこりと笑う先生に顔が熱くなる。
そんな事を言われたら、変に期待してしまう。

「先生ってタラシですね」
「何処がだ」
「そんな事さらっと言うところですよ」
「え、俺かっこ良かった?」
「はい。そりゃあもう惚れちゃうくらいに」

風丸先生の冗談に私が半ば投げやりに答えると、何故か先生が急に止まり顔を赤らめて口元を隠している。

「先生…如何かしました?」
「さっきの言葉…あれ、本当か?」
「へ?」
「だから、惚れるって」
「……惚れてますよ」

先生が、凄い真顔で聞いて来たからつい本気になって答えてしまった。
気まずくなり、先生を置いて走ろうとすると急に腕を引っ張られた。

「うわっ⁉」

少しバランスが崩れ、先生にもたれかかる形になる。
そして先生が私の耳元に顔を近づけた。うわ、汗臭いのバレちゃう!

「……放課後、教室に残っていろ」
「えっ⁉」
「……先に行くから」

先生がさっきとは違い、私との距離をどんどん空けて行く。
私は未だに状況が掴めずにその場に立ち尽くす。

ゴールまであともう少し、私は先生を追うかのようにして走り始めた。
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