愛する君からの贈りもの

□第九話
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ナツメと沖田が付き合い始めてから数週間が経過した。

二人は空き時間や非番日、そして仕事を終えた夜になると度々会った。

二つの屯所を行き来する二人。

真選組隊士の方は、「沖田の恋人」という事で誰も文句を言わない。

文句を言えば沖田に殺されるのは確実であるし、何より、真選組隊士へのナツメの接し方が優しかったからだ。

隊士たちもナツメの訪問に関しては大歓迎で、中には真選組屯所を出入りするナツメに、ひそかに恋心を抱く男もいた。

それぐらいナツメは綺麗であり、沖田の仲間である隊士達に良く接していた。

ーーーーーーが、そんな温かい真選組隊士達とは逆の疾風団隊士。

沖田が疾風団屯所を出入りすると、必ずと言って良いほど、晴彦、雷太、雲雀は嫌な顔をした。

雲雀に関しては瞳孔を開かせ、いつも何かを破壊し暴れまわっていた。

度々聞こえるナツメの部屋からの喘ぎ声にも、三人は耳を塞いでいた。

二人が付き合っているのは目に見えてわかる事。

ナツメの首につけられたたくさんのキスマーク。

満足したような表情で帰っていく沖田。

何より、幸せそうな表情で沖田を見つめるナツメ。

そんな日々を繰り返していくうちに、三人の堪忍袋の尾が切れはじめていた。


雷太「もう限界だ!俺ァナツメに言うぜ!ナツメのしている行動はおかしい!」

雲雀「そうだね…!僕ももう限界に達していたよ…!」


雲雀は狂ったような瞳で笑う。


晴彦「沖田さんが帰りましたら、ナツメに言いましょう」


三人は沖田が帰るのを、まだかまだかと待ち望んでいた。




ーーー
ーーー


夜中になると、ナツメはパトカーを出して沖田を真選組屯所へ送る。

これも毎度の事だった。

相変わらずベッタリな沖田は、ずっとナツメの体に触れていた。

ナツメもそれに関しては、嬉しそうに笑っている。

車が屯所から消えると、三人はナツメの帰りを待つかのように、ナツメの部屋の前に立っていた。

30分くらい経過すると、ナツメの乗ったパトカーが戻ってきた。

眠そうにアクビをしながら自室にゆっくりと足を運ばせる。

そりゃあ眠いだろう。

日付はとっくに変わっていた。

自室に足を運ばせていると、その足はふいに止まった。

目を細めるナツメは、三人の影をよく見つめる。


『…なんでここにいるんだ』


三人の姿を確認すると、眉を寄せて言った。


雷太「お前に話がある」

『俺はない。話なら明日にしてくれ。眠ィんだ』


アクビをし、雷太の目の前を通り過ぎるナツメの腕を、雲雀が掴んだ。


雲雀「ナツメ」

『…あ?』

雲雀「ナツメ、自分のしてる事分かる?おかしいよ」

『…何が?』


晴彦がナツメの肩に手を置き、眉を寄せて言う。


晴彦「…沖田さんと貴方のしている事は、間違っています」

『…は?なにそれ』

晴彦「お互いの屯所を行き来し、会えば必ず体を重ねる。団長がする事ですか?」

『そりゃあ付きあっていれば体くらい重ねるだろう。それに、俺ァ仕事とプライベートはきちんと分けている。総悟に会うなら、きちんと仕事を片付けてから会ってるし…』


たしかにナツメはきちんと仕事をこなしていた。

書類や任務など、完璧に。

そこについては、三人は何も言えない。


『悪いが寝かせてくれ。眠くて仕方ねェんだ』

雷太「ナツメ。前に言ったよな。アイツと会う回数を減らすってよ」

『…言ったな。でも、それはまだ付き合ってない時だ。今は自分の気持ちがきちんと分かる。俺ァアイツの事が好きだ』

雷太「お前、団長がする事じゃねーって分かったって言ってただろうが!」

『でも…俺ァ総悟が好きなんだ…。好きで好きで…たまんねーんだよ…』


雷太は唇を噛むと、ナツメの胸ぐらを掴んだ。


雷太「オメーなァ!相手は真選組だぜ?よりによって、なんで真選組なんだよ!同じ組織じゃねー男なんかと…」

『総悟は俺の事を理解してくれる、唯一の人間なんだ』

雷太「意味わからねェ!その言い方じゃあ、俺たちがお前の事を理解していないように聞こえるぜ!」

『俺はそんな事…』


ナツメは困った顔をすると、雲雀がナツメの腰に抱きついた。

ナツメの着流しに顔をうずめ、モゴモゴと話しだす。


雲雀「僕のナツメでいてよ…。真選組なんか…相手にしないで」

『…雲雀』

晴彦「ナツメ。俺たちにはナツメが必要なんです。貴方が大切なんです…この意味、貴方もご存知ですよね?」

『…』

雷太「俺たちはお前に…命を救われて今を生きている。だからお前の事は本当に…本当に大好きなんだよ」

晴彦「…いつまでも俺たちのナツメでいてください。お願いします」


頭を下げる晴彦にナツメは目を伏せた。


『…お前達の事は本当に好きだ。俺からお前達を取ってしまったら…何も残らない。…でも、総悟も同じくらい好きなんだ…。お前らと同じくらい、大切なんだ!』


ナツメはギリギリと歯を噛み締め、必死に三人に向かって言う。


『お前らは、総悟の事を何か誤解しているぞ?!たしかにアイツは、やる事が無茶苦茶で、ニヤけた顔とか企んでる顔とかムカつくし、言ってる事も毒舌だ。けど…すごく優しくて他人思いなんだよ…。俺の事も…一番に見てくれて…』


そこでナツメは沖田の顔を思い浮かべると、優しく微笑んだ。


『…頭を撫でられるのが好きなんだ。すごく…優しい温もりがする。癒されて…安心する。良い奴なんだよ、総悟は』

雷太「お前、かなりソイツに惚れてるのかよ」

『惚れてるぜ。総悟の事は何があっても離さない』

雷太「何があっても…?たしかにそう言ったな」

『言った。お前が総悟と別れろと言おうが、俺は絶対に別れない』

雷太「…そうか。分かった」


雷太は自分の腰にささっている鞘から刀を抜き取る。

そのまま己の胸に刃先を向けた。


『ら、雷太!!何を…?!』


雷太は自分の胸に向けて、刀を突き刺した。

鈍い音と共に、血が噴き出る。

ビシャビシャとナツメの顔に返り血が飛び散り、雷太は床に倒れた。


雲雀・晴彦「「雷太!!」」


二人は雷太に駆け寄り、ゆっくりと体を起こす。

なんとか息をし、口角をあげてナツメを見上げた。


雷太「ふざけた…男だ、お前、は。俺ァ…テメーが、真選組、の…男と、付き合う…なら…死ねる、ぜ」

『な…なんで!!なんで雷太!なんでそんな事しやがんだ!!』


ナツメは二人をどけ、雷太の身体を支える。


雷太「馬鹿…野郎…。言った…だろ。お前の、こと…好き、だって…」

『…ッ。雷太…』

雷太「誰にも…わたしたく、ねェ…。愛して、んだ…ナツメ」


雷太はそっとナツメの頬に手を添えると、ナツメはその手に触れた。

雷太「なァ…ナツ、メ…。もう…十分に…遊んだ、だろ…?そろそろ…帰って、来いよ…」

『…、』

雷太「もう…お前と…アイツが、いる所…見た、く…ねェ」

『…ごめん…ごめん、悪かった。雷太…ごめん…』

雷太「…分かって…くれた、か?」


ナツメは大粒の涙を流しながら、コクコクと頷いた。


『雷太ァ…死んじゃ…やだ…やだ…』

雷太「死なねェ…ナツ、メ…好き」

『うっ…雷太、ごめんな…ごめんな』


ナツメが涙を流しているうちに、雲雀が呼んだ医師がかけつけた。

雷太をナツメの部屋に運ぶと、すぐに治療が始まった。

呼ばれた雪智と時雨も駆けつける。

苦しみ、顔を歪めている雷太を、ナツメはずっと見つめていた。


雷太「うっ…!ううっ!」


麻酔無しの治療に、雷太は声を荒げる。

そっと震える手でナツメの手を取る雷太。

ナツメはもちろん握り返した。


雷太「ナツッ…メ…!ううっ!あっ!」

『雷太…雷太ァ』


ナツメは雷太の手を両手で握りながら、治療が無事に成功することを願ったー…




ーーー
ーーー


治療が成功し、医師が帰るとナツメと雷太は部屋に二人っきりになった。

別部屋で雲雀と晴彦が、後から駆けつけた雪智と時雨に事情を説明している。

雷太は静かに呼吸をしながら、呟くように言った。


雷太「…きっと俺たち三人は…雪智に怒られるだろうな」

『…なんで』

雷太「…なんか、そんな気がする」

『…お前らが怒られる事なんて…ねーだろ。怒られるのは俺だ。…本当にすまなかった』


頭を下げるナツメに雷太は軽く微笑む。


雷太「…お前、変わったな」

『…別に、どこも』

雷太「いや、変わったぜ?優しくなった…うん。丸くなったな」

『…そうか』

雷太「前のツンとしたお前も好きだけど、優しいお前も好きだぜ」

『…あァ』


月明かりがナツメの瞳を照らし、いつもの金色の瞳が姿を表す。

しかしその瞳には、いつもの輝きは全く無く、何も光らない。

魂が抜けてしまった…生きる意味を失ってしまったかの…

絶望の瞳。

焦点が合っていないせいか、雷太を見つめているようで、見つめていなかった。


雷太「…ナツメ…?どこ見てやがる」

『…雷太を見ている』

雷太「お前…死んだ目してんぞ。いつもの輝きのある瞳じゃ…」

『…俺は雷太だけを見ているぞ』

雷太「…ナツメ」


なんだか心のこもっていない話し方に、雷太は不審がる。


雷太「ナツメ…。大丈夫、か?」

『…あァ』


ナツメはそう言うと、寝ている雷太の顔の横に手をつき、ゆっくりと顔を近づけた。

軽く唇が重なると、そっと離れる。


雷太「えっ…」

『俺ァ…今後の人生、全てをお前らに注ぐ。だから心配するな。沖田ともすぐに別れてやる。もう…何も思わない』

雷太「ナツメ…」

『…万が一、俺がお前らに愛を注ぎすぎて死んだら…疾風団の事、よろしくな』

雷太「お前が死ぬわけねーだろ…俺のナツメなんだからよ」


雷太はナツメの首に腕を回すと、二人は唇を何度も交わした。

リップ音が鳴り響く。


『んっ…ん、んっ』

雷太「…んぅ…ナツメ…好き…好き、だ…ナツメ」

『…ッ、…雷太…んっ』


うっすらと目を開けると、雷太の痛々しい胸元の傷が目に入る。

傷口が見えないように布団をかぶせると、また瞼を閉じてキスを繰り返した。




ナツメに想いを伝えるために、胸に深い傷を負った雷太。

仲間の深い傷を目の前にし、沖田との愛を自ら終わらせたナツメ。

その決断は、同時にナツメの死に繋がる事になるー…




ーーー

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