愛する君からの贈りもの

□第六話
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そして、女と会う日がやってきた。

ナツメは着流しに着替え、女との待ち合わせ場所へ行く準備をしていた。


『…なんだ、何を持って行けば…』


これもまた女と待ち合わせをするなんて、初めてである。

ナツメは部屋の中を行ったり来たりし、落ち着かない様子。


雷太「…ナツメ、今いい?」

『あ?…あァ、なんだ?』


雷太がナツメの部屋に入り、なんだか浮かない顔でナツメを見る。


雷太「ナツメ、どこか行くのか?」

『あァ。女と会う約束をしてるんだ』

雷太「女?!ナツメ、女でもできたのかよ」

『いや、違ェ。少し聞きたい事があってな。俺も初めて会うんだ』


「ふーん」と言った顔でナツメを見る雷太。


雷太「…昨日、真選組の男が来てたな」

『…あァ。なんで知ってるんだ?』

雷太「見かけたんだ、たまたま。なんで真選組の男なんか連れこんでんだよ」

『総悟が非番だったそうだ。だから遊びに来たんだ』

雷太「なァ。なんでアイツの事、名前で呼んでんだよ」


睨みつけるように見る雷太に、ナツメは首を傾げる。


雷太「ナツメって、気に入った奴しか名前呼びしねーだろうが。…アイツの事気に入ってんのかよ」

『…別にそんな訳じゃ…』

雷太「なら名前で呼ぶの、やめろよ」


沈黙になる二人の間には、時計の静かな音しか聞こえない。


雷太「…あのさ、前から思ってたんだけど、ナツメってアイツの事…好きなの?」

『…ッ!んなわけねーだろ!誰があんなヤツ…』

雷太「…だったらいいけど。ナツメには、あんなヤツよりも、もっと良い人がいると思うぜ」


それに対してナツメは、何も言葉を発しなかった。


雷太「…最近のナツメ、変。なんだか前より色っぽくなったし、優しくなった気がする」

『…嫌か?』

雷太「別に。嫌じゃねーけど。…でも、ナツメが変わった原因が、アイツのせいってなったら、俺ァ嫌だ」

『…雷太。なんでお前はそんなに総悟の事を…』

雷太「だから!!名前で呼ぶなって言ってんだろうが!!!」


怒鳴る雷太に、ナツメは驚いた顔で目を見開く。


雷太「…気に食わねーんだ、アイツの事が。ナツメの事を知り尽くしたような瞳をしてやがる。アイツといる時のナツメは…優しく笑ってる。幸せそう。俺らなんかといる時よりも…」

『それは違ェーよ、雷太。俺はお前らと一緒にいる方が、何倍も楽しいし幸せだし…』

雷太「なら、俺とアイツ、どっちが一緒にいると幸せ?」

『えっ…』


雷太はナツメの目の前まで歩くと、顔を見上げた。

真っ直ぐに見つめるその瞳から、目が離せない。


雷太「…答えろよ」

『…そんなの…聞くんじゃねーよ』

雷太「答えられねーのか?ナツメ」

『…答えれるけど、』

雷太「言えよ、ナツメ」


攻める雷太に、ナツメは黙り続ける。


雷太「なんで…なんで何も言わねーの?やっぱりお前は…アイツの事が好きなんだろ?」

『違う…』

雷太「じゃあなんで?そんなに困る質問なんてしてねーだろ」

『ん…悪い』

雷太「なんで謝るんだよ!意味わかんねェ!どうせ真選組の男が好きなんだろうよ!気色悪ィ…ふざけんなよナツメ」


ギリギリと歯を立てて暴言を吐く雷太を、ナツメは黙ったまま見る。


雷太「おい、テメーは団長だろうが。普通、仲間が一番って考えるんじゃねーの?アイツと仲間が殺されそうになってる時、お前は迷うのかよ」

『…迷わない』

雷太「どっちを助けるんだ?」

『………仲間』

雷太「ふん。そうだろ?お前、アイツに洗脳されてんじゃねーの?バカみてェ」

『…ごめん』


雷太はナツメに背を向けると、呟くように言う。


雷太「お前、いつかは仲間を裏切りそうだな」


そう言い、部屋から出ようとした雷太を、後ろから思いきり抱きしめるナツメ。

雷太は驚いたように体を硬直させる。


『やだ…怒らないで…雷太』


その声はかすかに震えていて、泣きそうな声だとすぐに分かった。


『ごめん…もう名前で呼んだりしないし…俺、アイツの事好きじゃないし…雷太の方が好き…』

雷太「…もしそれが嘘だったら?」

『嘘じゃない…俺ァ…仲間が一番なんだ…俺から仲間を取ってしまえば…何も、ないよ…』

雷太「…お前は顔が良いし、女も男も寄ってくるだろうが。仲間がいなくなったとしても、寂しくねーだろうよ」

『やだよ…やだっ…そんな事、言うなよ…雷太ァ』


肩を震わせて泣き出すナツメに、雷太は振り返り、ナツメの顔を見上げる。

ポロポロと涙を流すその姿は、初めて見るものだった。


『ごめん…ごめん…雷太…うっ』

雷太「…俺の方こそごめん、ナツメ。俺、言いすぎた」


フルフルと顔を横に振るうナツメの頬を流れる涙を、雷太の指がすくう。


雷太「いつの間に泣き虫になってやがったんだ…ナツメ」

『雷太に…嫌われたく、ないっ…』

雷太「嫌わねーよ。俺ァ、お前が仲間を裏切っても嫌わねェ。ずっと好きだから、ナツメの事」


雷太はナツメの頬を両手で持つと、軽く引き寄せた。

ナツメの唇と、己の唇が軽く重なる。


雷太「ヤキモチ…妬いてた。ごめん」

『ん、俺こそごめん。考え直さなきゃダメだな…俺』

雷太「いい。そんな事も。俺の事、考えてくれればいい」

『えっ…』

雷太「やっぱりナツメの事、好きすぎて誰にもわたしたくねェ。俺の事、見てよナツメ。俺の事好きになって…俺だけのナツメになって」


言葉を詰まらせるナツメに、雷太は小さく笑う。


雷太「…好き、」

『…ありがと、雷太』

雷太「…あァ」


雷太はナツメの頭を引き寄せると、そのまま唇を重ねた。

唇を重ねるナツメであったが、その表情は苦しそうであったー…

ナツメの本当の想いとは…

いったい何なのだろうか。




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