愛する君からの贈りもの

□第四話
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花火大会の日から一週間が経とうとしていた。

高杉晋助に遭遇したナツメは、その事について偉いさんに報告に行ったり、書類を整理したりなど、多忙な日が続いていた。

そんな多忙であっても、必ず毎日しなければいけない事は江戸の見回りである。

今日の見回りのメンバーは、ナツメと晴彦、雷太であった。

雷太との一件(唇を交わした事)があったが、その後は何事も無かったかのように二人は接した。



『晴彦、運転を頼んだぞ』

晴彦「はい、分かりました」


晴彦の運転で屯所を出ると、江戸の町へ向かった。

江戸の町はいつもと変わらず、人の行き来が激しい。

朝っぱらから道路の傍では、男共が喧嘩をしている。

真剣を出していない事を確認すると、その男共をスルーした。


晴彦「喧嘩を止めなくて良いのですか」

『いい。あんなのすぐに終わるだろう』

雷太「なんかなァ、パーッと事件か何か起きねェかな」

『暴れたいのか?雷太は』


軽く笑うナツメは窓の枠に肘をかけた。


雷太「だってよォ、暇じゃね?なーんにも無いなんてさァ」

『ドライブ気分で良いじゃねーか』

雷太「嫌だよ。男三人でドライブだなんてよォ」


口を尖らせる雷太が、後部座席から身を乗り出して言う。

何事もなく見回りルートを車で走行していく。

疾風団の紫一色のパトカーが通り過ぎると、町の住人は避けるかのように道幅に寄った。

すると目の前に、白と黒の真選組のパトカーが止まっていた。

何やら黒い隊服の男が二人、外に出て話しをしている。


晴彦「真選組ですね」

『あー…止めろ』

晴彦「ここにですか?」

『あァ』


晴彦は真選組のパトカーの隣りに、疾風団のパトカーを止めた。

三人はパトカーから降りると、二人の男に近づく。


『総悟、土方。何してんだ?』


声に振り向く二人は、疾風団のナツメたちに驚いた。


沖田「ナツメェ。会いたかったでさァ」

土方「テメーらと見回り中に会うなんざ、珍しいな」


二人の隙間から覗くと、そこには銀髪の天然パーマの男と、メガネの男。

それにオレンジ色のチャイナ服を着た女が立っていた。


『…どうしたんだ?一般人に』

土方「顔見知りだ。コイツがスクーターで三ケツしてやがった。それで注意をしていた所だ」

銀時「仕方ねーだろ!交通手段がこれしかねーんだからよ」


頭をかきむしる銀髪の天然パーマを見上げる。

その死んだ魚のような瞳に、思わず見惚れてしまった。


銀時「てか、何。この紫たちは?新しい警察さん?」

『俺たちは疾風団という警察だ。業種は真選組と似たようなもの』

銀時「へー、そう。俺たちは万事屋。オーナーの坂田銀時でーす」


銀時はナツメに名刺をわたすと、それをジックリと見つめた。


銀時「んで、このメガネが新八。このチャイナが神楽。

神楽「よろしくネ」

『…ん。雷太とあまり変わらねーな』


隣りにいた雷太に顔を向けると、神楽と身長が変わらない。

それほど雷太は身長が無かった。


雷太「あ?俺ァこの女よりデケーぞ」

神楽「私と同じ身長だなんて、相当なチビアルな」

雷太「…あ?誰がチビだって?」


雷太は神楽を睨みつけると、二人はギリギリと睨み合った。


晴彦「三人乗りはよくないですねェ」

新八「ご、ごめんなさい…」

銀時「仕方ねーって。見逃してくれや」

土方「前も見逃しただろうが。今回は無理だ」


四人はスクーターの三人乗りについて話しており、神楽と雷太はギャーギャーと騒いでいた。

めんどくさくなったナツメは、ため息をつきながらその光景を見つめる。


沖田「ナツメ。この隙に、仕事サボっちゃいやしょうか」

『あ?何言ってんだ。んな事…』

沖田「あんみつ食べに行きやせん?腹へりやした」

『…行く』


あんみつの誘惑に負けたナツメは、みんながお取り込み中の間に沖田と姿を消した。

少し歩くとあんみつ屋があり、二人はそこへ入る。

客の姿は少なく、外の気温よりも涼しく感じた。


沖田「おばちゃーん。あんみつ二つね」

おばちゃん「あらァ!珍しいねェ、沖田くん。今日は土方さんじゃないのねェ」

沖田「今日は恋人を連れてきたんでィ」

『誰が恋人だよ』


すかさず否定をするナツメを、あんみつ屋のおばちゃんは驚いた目で見つめた。


おばちゃん「あらアンタ…疾風団の人かいな」

『あァ、そうだが』

おばちゃん「いつもねェ、時雨くんがあんみつを食べに来てくれるんだよォ。あの子良い子だねェ」

『…へー、知らなかった』


席に座り、適当に店内を見回すと、古い建物だと分かる。

メニューが少ししかない所をみると、ここの店員はおばちゃん一人だ。

おばちゃんはあんみつと、サービスにオレンジジュースを二つ持ってきてくれた。


おばちゃん「ゆっくりしていきよォ」

沖田「いただきまーす」


沖田はさっそく口の中にあんみつを入れると、「んーっ」と声を出した。


沖田「うまァ」


続いてナツメもあんみつを口に入れると、目を見開かせた。


『んまいっ!』

沖田「ここのあんみつは、蜜が多くかかっているから美味いんでさァ」


パクパクとあんみつを食べるナツメに、沖田は目を細めて笑う。


沖田「…可愛い」

『…あ?』

沖田「まるで彼女と来ているようでィ」

『悪ィが俺ァ、テメーの彼女でも何でもねーよ』


スプーンをくわえて言うナツメを、沖田は肘をついて見る。


沖田「いつになったら俺のもんになってくれるんでィ」

『ならねーよ。一生な』

沖田「酷いでさァ。アンタのためにいろいろ考えてやってんのに」

『…えっ?』


首を傾げるナツメに、沖田は一枚の紙を見せた。

そこには「天人病」と書かれている。


沖田「監察方の山崎から、天人病について調べてもらったんでィ」

『…そ、そうか。で、何と書いてあったんだ?』

沖田「やはり治療法は見つかってないらしいでさァ」

『…やっぱりな』


顔を曇らせるナツメに、沖田はその紙のある部分を指差す。


沖田「でもコレ。見て下せェ。この人、天人病を完治させてまさァ」


そこには、一人の女性の写真が載っていた。

その人は、天人病を完治させたと書いてある。


『すごい…でも、どうやって…』

沖田「…ナツメ。良いですかィ。今から言う事を一回できちんと聞きなせェ」


沖田の真顔に、ナツメは小さく頷く。


沖田「天人病ってのは、傷とか、そんな目に見える物じゃないんでさァ」

『目に見える物じゃない?それはどうゆう意味だ?』

沖田「ガン腫瘍とか、検査して分かりやすよね。それなら、そのガン腫瘍を取り除けば、命が助かる事があらァ。でも、天人病ってのは、そんな腫瘍とかじゃねェ…心の病気なんでさァ」

『…心の、病気?!』


沖田は頷く。


沖田「アンタは幼い頃に、天人から病気を移されたって言ってやしたよね。どんなふうに移されたか、覚えてやすか?」

『…覚えてない。ただ、医師に「貴方は幼い頃に天人から病気を移されている」と、聞かされただけだ』

沖田『…天人病には、さまざまな原因があるんでさァ。例えば、天人から目の前で親を殺された。天人から無理やり犯された。…そんな、天人に対して、心に大きなキズを負うと、その数年後にフラッシュバックとして、頭痛、吐き気、吐血、心臓の痛みがおこるんでィ。放置をしとけば、死にまさァ」

『…やはり死ぬんだな』

沖田「ナツメ、昔、天人と何かあったのかィ?」

『…家族を食われた』

沖田「…多分それでィ」


ナツメは俯くと、沖田の手が優しくナツメの頭に置かれる。


沖田「ナツメ。この女に会いなせェ。連絡は俺がしときまさァ」

『あ…会えるのか?!』

沖田「山崎にいろいろ、調べさせまさァ。会って、どんなふうに治ったか、聞きなせェ」

『会いたい…その女に会って、治療法を聞きだす』


沖田は頷くと、残りのあんみつに手をつけ始めた。


『…そ、総悟。悪いな、なんかいろいろと…』

沖田「良いんでィ、このくらい。礼はナツメの体でしてもらいまさァ」

『なっ…!何言ってんだ、バカ!』


ナツメは顔を赤くすると、あんみつをガツガツと食べ始めた。





ーーー
ーーー


あんみつ屋から出ると、沖田はナツメの手を引いて狭い路地裏へ連れて行った。

もちろん沖田とナツメ以外の人はおらず、二人だけである。


『な…なんだよ、総悟』

沖田「みんなの所に戻る前に、二人きりになりてェ」

『あ、あんみつ屋でも二人きりになっただろうが』

沖田「俺たち以外の客とおばちゃんもいたし。二人きりじゃないでさァ」


沖田はナツメの腰に手を伸ばすと、そのまま引き寄せ密着させた。


『やっ…!な、何するんだ!』

沖田「イチャイチャでさァ」


ナツメの顎を上に持ち上げると、ニヤリと口角を上げる沖田。


沖田「ナツメの金色の瞳、すげー綺麗なんですけど」

『見るな…別に見せ物じゃねェ』

沖田「その瞳に、俺だけを映しな。ナツメ」

『…断る。お前以外の人間も映る』

沖田「ひでェや。このチビ野郎…」


沖田はそっとナツメの唇に、己の唇を重ねた。

軽く重ねた唇は、いとも簡単に離れてしまう。


『…だ、だからやめろって』

沖田「じゃあ、やめまーす」


沖田はナツメから離れると、スタスタと前を歩き始めた。


『えっ…』

沖田「どうしたんでィ」

『…いや、いつもなら強引にしてくるのに…』

沖田「アンタがやめろって言ったんで、やめやした」

『…そ、そうか』


俯くナツメを、沖田は黙って見つめる。


『…あ、あのさ』

沖田「ん?」

『…仕方ねーから…今日はたくさん…して良いぞ』

沖田「…はい?」


沖田は口角を上げる。


『だ、だから!今日はたくさんキスして良いぞって言ってんだ!』


顔を真っ赤にし、ナツメは怒鳴った。

そんなナツメに沖田は満足そうに笑う。


沖田「俺としたくてたまらねーって顔でさァ」

『そんな顔…してない』

沖田「してやすぜ。ん、きちんと顔見せて、ナツメ」


沖田はナツメの頬を持ち上げると、潤んだ瞳でナツメは沖田を見上げる。


沖田「ほら。…俺が欲しいって言ってる顔だ」

『欲しくなんか…』

沖田「へェ。なら俺ァまた、アンタから離れやすぜ」

『そ、それは嫌だ!!』


ナツメはギュッと沖田の隊服にしがみついた。

ニヤニヤと笑う沖田。


『あ…ちがっ、今の違う!忘れてくれ』

沖田「聞いちゃいやした。じゃあ離れやせん。ずっと」


沖田はナツメを抱きしめ、強引に唇を重ねた。


『んっ…んぅ…んっ、』


ナツメの息が漏れる。


沖田「ナツメ。好きでさァ…」

『うっ…んんっ…総悟、』


ナツメは自ら沖田の首に腕を回し、背伸びをした。

クチュクチュと唾液が音を立てる。


『んっ…そ、ご…舌…ッ』

沖田「んっ…ナツメは舌を絡ませるのが、好きなんですねィ」


舌先を交えると、ナツメは気持ち良さそうに声を漏らす。


『ふ…んっ、んんっ…あ』


思う存分に絡め終えると、沖田はナツメを隠すように抱きしめた。


沖田「あー、やべ。このチビすげー可愛い」

『…チビ言うな』

沖田「…犯してェ…ナツメ」

『いや。…それは断る』


ナツメは沖田の背中に腕を回し、真選組の隊服に顔をうずめた。

少しずつ、ナツメの気持ちが傾いてきている事に…

沖田と、ナツメ自身は気づいているのだろうかー…





ーーー

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