貰いもんはいらなくても貰っとけ

□第三話
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そして、ついに真選組屯所を奇襲する日がやってきた。

空にゆらりと現れた船は、真選組屯所の真上に上陸する。

月と重なり真選組には明かりが消えた。

異変を気づいた門番の隊士が空を見上げると、慌てて屯所の中に入って行く。

それを見たうゆはニヤリと口角をあげた。


『出て来いよ…土方、沖田』


屯所から慌てて次々と隊士が出て来ると、皆は必ずと言っていいほど空を見上げた。

あの土方も自室から出て来ると、顔色を変えて空を見上げる。


土方「な…なんだアレは!」


慌てて局長の近藤勲と監察を務めている山崎退も出てくる。


『出てきた出てきた…』


その二人の後ろを、待ち構えていたかのように平然と沖田が現れた。

目的の土方と沖田が揃うと、うゆはその場で立ち上がった。


『条件は一つ。誰も死ぬんじゃねェ。特に黄瀬、嘉禄。お前ら二人だ』

黄瀬「分かってるよ、うゆ様!土方って野郎をちゃちゃっと殺してくるから安心しなァ!」

嘉禄「うゆくーん。ご褒美はチョコレートケーキにしてよねェ」


いつも通りの二人に安心したうゆは、真下にある真選組屯所に刃先を向けた。


『跡形もなく始末する事だけ考えろ』

「「「「「はっ!!!」」」」」

『血祭りにしてやろうぜ。行けっ!』


うゆがそう叫ぶと五人は船から飛び降り、屯所内に入って行った。

次々に真選組隊士が鞘から刀を抜き取る。

土方も鞘から刀を抜き取り、飛びかかってきた。


黄瀬「おっと!待ちな!土方十四郎。テメーの相手はこの俺だァ!」


二本の刀を鞘から抜き取ると、一気に刀を土方の頭上に振り下ろした。

咄嗟にその二本の刀を受け止める土方。

ギリギリと刃が噛み合う。


土方「テメーら…鬼襲隊だな!」

黄瀬「気づくのおせーよ!副長さん!鬼のように怖いって本当なのかよ!」


まるで刀をおもちゃのように扱う黄瀬に、土方は押されっぱなしだ。


黄瀬「なぁなぁ!副長さんってば!鬼のように怖い所見せてくれよォ!」


ガンッ ガンッ

次々と土方に向けて刀が振り下ろされ、土方はそれを刀で押さえる事しかできないでいる。


土方「テメー、一回離れろや。暑苦しいんだよ!」


土方は黄瀬の腹を蹴ろうとするが、スカッと黄瀬は軽々よけた。


黄瀬「チェーッ!全然強くねーじゃん、この人ォ!つまんねーぞ!」

土方「黙れ!叫ぶんじゃねェ!耳がいてーだろ!」

黄瀬「ウゼェ!テメーだって叫んでるだろーが!」


二人は睨み合い、ギリギリと歯ぎしりをする。


土方「四本黄瀬。テメーの名だな。二刀流使いの」

黄瀬「あったりー!何で知ってんのー?副長さーん」

土方「ふん。テメーの性格欄に、喧嘩好きと書いてあったからな。俺と同様の部分があると思い、覚えておいたんだ」

黄瀬「喧嘩好きの割には弱いじゃねーかァ。本当に喧嘩好きかよ?」


土方はポケットからタバコを取り出すと、口にくわえた。


土方「本当に弱いかは…自分で確かめてみろや!!」


土方はライターでタバコに火をつけると、一気に黄瀬に飛びかかった。


黄瀬「ひゃっほォーい!それでこそ喧嘩だよなァ!副長さんよォ!」


黄瀬はペロリと唇を舐めると、黄瀬も土方に飛びかかった。








一方、沖田と嘉禄はー…


うゆと一戦殺り合うと約束をした沖田は、周りの隊士が戦っている中、のんきにうゆを探していた。

キョロキョロと周りを見回しても、うゆの姿はない。


沖田「どこに居るんだ…あのチビ」

嘉禄「お兄さん、誰を探しているの?」


沖田の後ろから嘉禄の落ち着いた声が聞こえると、沖田は嘉禄に背を向けたまま話を続ける。


沖田「人探しでさァ。ガキには興味ねェや」

嘉禄「ガキって僕の事?ひどいなァ…歳は君と同じくらいだと思うけど。で、誰を探しているのォ?」

沖田「鬼頭うゆ。知っているかィ?小さな怪物なんですがねィ」

嘉禄「鬼頭うゆ、ね。知ってるよォ」

沖田「知ってんなら話は早ェや。どこにいるか教えてくれねェかィ」

嘉禄「嫌だよ。うゆくんの場所には行かせないよ」


嘉禄はそっと腰に備えてある銃に手を添える。


沖田「それは困りまさァ。鬼頭うゆと一戦交える約束をしたんでィ」


沖田も腰に備えてある鞘に手をかける。


嘉禄「そうなの?聞いてないやァ。じゃあ、僕に勝ったらうゆくんの所に連れていってあげるよォ」

沖田「それはありがてェや」

嘉禄「でもねェ、僕に負けたら二度としないで欲しい事があるの」

沖田「…は?」

嘉禄「僕に負けたら…」


嘉禄はそう言うと銃を引き抜き、パンッパンッと銃弾を撃つ。

鞘から刀を抜いた沖田も嘉禄に振り向き、刀で銃弾を吹き飛ばした。


嘉禄「うゆくんの名前、もう口にしないでって約束しろ」


瞳孔が開いている瞳で沖田を見つめる嘉禄に、沖田は顔を引きつらせた。


沖田「なんでィ、んな事か。約束してェところだが、それは無理だと思いやすぜィ」


銃弾を弾き飛ばしながら、沖田は嘉禄に近寄り刀を振るう。

軽々とよけてしまう嘉禄は、綺麗な銃さばきで沖田の心臓を正確に狙う。


沖田「俺はアンタごときに負けやせん。だから鬼頭うゆの名前を口にしないって約束は、守れやせんぜィ」

嘉禄「うるさいなァ。だから、もうやめてよ、うゆくんの名前を出すの。うゆくんの名前を言っていいのは、僕たちだけなんだよ」


沖田の心臓部分に飛んでくる銃弾をギリギリによけながら沖田は刀を振るう。


沖田「アンタ、気持ちわりーでさァ。もしかしてオニデレ系ですかィ?」

嘉禄「オニデレ?何それ、おもしろいの?僕たちはただ、うゆくんの事が好きなだけさ」

沖田「へェ。じゃあもし、アンタの仲間の誰かが、アンタの大好きな鬼頭うゆを独り占めするような事があったら…どうしやす?」


あえて答えをわかっている質問をする沖田。

嘉禄はニヤリと笑うと、奇妙な顔で沖田を見上げる。


嘉禄「そんな事する人は…悪い子だねェ。独り占めは…ダメだよォ」

沖田「顔…やばっ」

嘉禄「そんな悪い事する人は…仲間でも殺しちゃうよォ!!!」


嘉禄は何発も沖田の心臓に銃弾を放つ。

それを間一髪よけるが、すかさず嘉禄の蹴りが沖田の腹を直撃した。

勢いよく飛ばされる沖田に、ゆらゆらとゆっくり近づく嘉禄。

そんな嘉禄を見て、沖田は口の端しから流れる血を拭った。


沖田「アンタ顔、イっちゃってやすぜ。大丈夫ですかィ」

嘉禄「心配してくれるのォ?大丈夫だよ、僕。平気さァ」


歯を出して笑う嘉禄に、苦笑しかできない沖田。


沖田「面倒なのが俺の相手で災難でさァ…ま、早めに終わらせますがねィ。俺のうゆが待ってるんでィ」


沖田はそう言うとニヤリと笑う。


嘉禄「てんめェェェエエエエ!!」


嘉禄は叫び声に似た声を出すと、一気に沖田に襲いかかった。







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