愛する君からの贈りもの
□第六話
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重い気持ちのまま、ナツメは女との約束の大江戸喫茶に向かった。
外は照りつける太陽でものすごく暑いが、喫茶店の中は涼しかった。
かいた汗が一気に冷え、流れる汗を腕で拭う。
沖田が決めてくれたテーブルに向かうと、綺麗な茶色のロングヘアーの女性が座っていた。
『えと…隅田重美、さん?』
隅田「はい。隅田です。風間ナツメさんですか?」
『…はい。はじめまして。今日はお忙しい中すみません…』
隅田「いえいえ、ちっとも忙しくなんか…。何か頼みます?」
『あ、じゃあ…適当にウーロン茶で良いです』
隅田は店員にウーロン茶を二つ頼むと、優しく微笑んだ。
隅田「素敵な方ですね、風間さん」
『え?そ、そんな事…』
隅田「綺麗な顔立ちに、赤い髪と金色の瞳がよくお似合いです」
『…女性にそのような事を言われますと、男の俺でも照れます』
小さく笑う隅田は、なんだか落ち着いていて、品のある女性だった。
隅田「お仕事は何をしてはるんですか?」
『えと…警察です。疾風団の…』
隅田「まぁ。疾風団でしたの?それはお忙しい…」
『いえ、大丈夫です。…あの、隅田さん。天人病のこと…』
隅田「そうですね。貴方には、一つもかける事なく、全てお話ししましょうか」
隅田は真剣な表情になると、ゆっくりと唇を動かしはじめた。
隅田「私が天人病になったのは、五年前です。完治したのは二年前。三年間苦しみ続けました」
『…そんなに、』
隅田「ええ。治療法が無いと言われ、もう諦めていましたからね。心の病気だという事は、ご存知でしたか?」
『はい、聞きました』
隅田「…今の江戸には、心の病気の患者を治す医師はいません。そこまで発達していませんからね、医療の方は。さて、風間さん。心の病気って、どうやって治すか分かります?」
『…どうだろう。分かりません。そもそも、心の病気って…』
隅田「心は心臓ではありません。もちろん、脳でもありません。…目に見えないんです」
『…目に、見えない』
隅田は頷くと、自分の胸に手を当てた。
隅田「目に見えないからこそ、治療が難しい。目に見える物なら、治療法があるのですが…。心の病気とは、目に見えないので、治療をしたくてもできないのです」
黙り込むナツメに、隅田は安心させるように笑う。
隅田「大丈夫ですよ、風間さん。ここからが重要なので、聞いてください」
『…はい、』
隅田「私は当時、一人で天人病と戦っていました。毎日血を吐き、いきなり心臓や頭の痛みが起こり…急に倒れた事もあります。そんな一人で戦っている私に、手を差し伸べてくれたのが…今の私の旦那です」
『…旦那、さん』
隅田「ええ。私の旦那は、私のために天人病の事を調べてくれたり…私に優しくしてくれたり…いつも一緒にいてくれました。自然と心が癒され、旦那と一緒にいると幸せで、自然と吐血や頭痛もなくなっていったんです」
『…それはすごい』
隅田「風間さん。天人病を、一人で治す事は難しいものです。理解者が必要なんです。誰かに頼るしかないのですよ」
『…その人に、俺の心を癒してもらうって事ですか?』
隅田「んー…まァ、そうですね。貴方の心は今、天人の恐怖により腐っています。腐った心を、腐った心の持ち主が治す事は無理です。貴方の周りに…貴方を理解してくれる人間は…いますか?」
ナツメの頭に浮かんだのは、もちろん沖田の顔だった。
『…いま、す』
隅田「その人に頼るべきですよ。頼る事は、悪い事でも迷惑な事でもありません。きっと、頼られた人も嬉しいはずです」
『…そうですかね』
隅田「こんな何億人という人口の中から、選ばれた事になるんですよ?それは嬉しいに決まっていますよ。旦那も言っていました。頼られて嬉しいって」
黙り込むナツメに、隅田は笑う。
隅田「貴方は治ります。治りますから、自分を信じてあげてください」
『…俺…最近、苦しくないんです。吐血もなくなったし…前より頭痛も減りました。…今考えてみると、最近…総悟と一緒にいたなって…思って』
隅田「きっと、貴方の心が徐々にその人によって癒されてきているのでしょうね…」
『…でも…俺ァ…』
隅田が首を傾げると、ナツメは顔を横に振った。
『…なんでもありません』
天人病の治し方を聞いたナツメの心は、なんだか複雑だった。
沖田総悟というナツメの理解者は、疾風団の仲間ではない。
また、今朝、あれだけ雷太を怒らせてしまったからには、沖田と会う回数を減らさなければならない。
むしろ、会わない方が…
しかし、自分の命がかかっている。
このままでは死ぬかもしれない…
ナツメの頭の中では、いろいろな事がぐるぐると回りはじめていたー…
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