小さな言葉から生まれたもの達

□呼ばれた筈の朝
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「なぁ、俺のこと呼んだ?」

昼、偶然出会った彼にそう言われた。

「え……?」

私の心は震える。
其れは不安からではなく歓びから。
期待が膨れ上がる。

「朝、お前に呼ばれた気がして、さ」

心は歓びによって破裂した。
声は彼に届いていた。
どうしようもなく嬉しい。

「呼んでないよ」

其れを彼に知られたくなくて嘘を吐いた。
でも、そう言った私はきっと笑顔。
其れを見て彼も気付いたはず。
でも、

「そうか、ならいい」

追求せずに優しく手を握ってくれた。
優しく、私を包み込むような笑顔で。
流れ込んでくる彼の体温。
其れは私の中の不安、恐怖、寂しさ、悲しみ、総てを奪ってゆく。
代わりに与えられるのは、歓び、温もり、優しさ。



彼に埋め尽くされていく気がした。



FIN


後書き→


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