ハチミツどろっぷす
□16.不良少女と別れ
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「如月さん!おはよう!」
「如月さんがまさかDorpSのリンちゃんだったなんて未だに信じられないなぁー…」
「マジでビックリした!」
「あ!昨日のMスタ見たよ!!すっごく良かった!!」
『あ…はは……ありがとう…』
朝から凛の座る机の周りには人がたくさんいた
それもそのはず
昨日、自分があの人気アイドルグループのリンである事をバラしてしまったからだ
もちろんバラしてしまったため、あの変装は初めからせずに、ありのままの姿で登校した
そして…如月凛が秀徳高校にいる事は日本中に知れ渡り…学校の外は一般の人間や取材目的の人間で大騒ぎになっていた
「如月さん!一緒に片付けしよ!」
「あ!ずりぃ!俺も!」
「俺も俺も!」
『あー…えっと…ごめん、私先生に呼ばれてて』
ニコッと笑うと凛は早々に教室を後にし顔を隠すように廊下を突っ切っていった
周りはすっかり文化祭の片付けムード
顔を隠しているおかげか、皆が作業に集中しているおかげか…教室から出た後は周りに囲まれる事なく逃げる事ができた
『…しんどい………これが嫌だからバラしたくなかったのに…』
ヒト気のない階段まで来ると、凛は壁に寄りかかったままため息を吐いた
そして、ゆっくりと思い返す…昨日の出来事
アレから私は他のメンバーと彰に連れられたまま学校を後にし、事務所へ向かった
そこでトップ・ザ・アイドル…通称TTAに参加する事を社長に伝え、そして謝罪をした
社長はしばらく黙ったまま私達を見つめ、そして部屋に彰だけ残して外へ出るように指示をした
だからそのあと、社長室で何があったのかサッパリわからないけど…戻ってきた彰の顔はゲッソリしていたからきっと沢山絞られたのだろう…本当にみんなには申し訳ない事をした…
『…でも、逃げたくない』
逃げたくない
自分の限界を知りたい。挑戦したい
あの時、もちろん不安もあったけど……同時に自分の力がどこまで通用するのか試したくなったのだ
『…由香里に負けない。負けたくない。それに……負けたら…』
“解散”
ーーーーーーそして、
「凛」
『!!!』
聞き覚えのある声で自分の名前を呼ばれる
声のした方向を見なくてもわかる
この声は…
「凛」
『…………ッ』
宮地先輩
宮地先輩………私、
「…無視か?へぇ…さすが、やっぱトップアイドル様は違うんだな」
『……ッそういうわけじゃ……ッ!!!?』
顔を上げるといつのまにか凛の目の前に立っていた宮地
もちろん凛は驚いて目を見開く
「DorpSのリンちゃん…お前だったんだな…」
『………』
「悪いな。今までベタベタ絡んじまってよ。お前が他人と距離取ろうとしてた意味、やっとわかったわ」
『…ごめ、』
「なんで謝るんだよ。別にバラして欲しかったなんて思ってねーよ………むしろ、知らないまま…このままずっと、知らないままお前といたかった」
『え…?』
先輩の言葉に瞳が揺れる
なんで…そんな事…言うの?先輩
『先輩……?』
「………凛」
宮地は凛の腕を掴み、そして自分の方へ引っ張る
「悪い。10秒だけ」
『ーーーーッ』
すっぽりと…宮地の腕の中に埋まる
背中へ回された先輩の腕が…少し震えてるような気がした
『先輩…』
そっと凛も宮地の背中に手を伸ばす
お互いその後は何も口に出さない
ただ、ただ…静かに時間だけが過ぎて行く
「……10秒とっくに超えてるな」
『…ですね』
宮地はゆっくりと凛を身体から離す
「じゃあ…」
そう言ってその場から離れていく宮地
凛はペタン…と力が全て抜けてしまったように、崩れ落ち、そして…静かに涙を流した
離れた瞬間、なんとなく感じたんだ
もう、私はこの人に触れる事ができないのかもしれない……と
『嫌だよ………行かないで…宮地先輩』
小さく震えながら紡いだその言葉は
もちろん彼に届くことはなかった
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