黒バス-short-
□君の言葉が嘘だとすれば
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「火神くん。もう終わりにしませんか?」
黒子はまっすぐに俺を見て言う。
「はぁ? なんでだよ。」
「もう社会人なんです。こんな関係……」
俺達は男同士で付き合っている。
高校の頃からずっと。
周りの人は皆知っている。
「大丈夫だって。皆、俺達を避けなかっただろ?」
「それは、皆さんが優しかっただけです。それにもう就職も近いんです。これ以上関係を続けられないんです。」
「なんだよそれ。俺達の愛はそんなんに敗けるくらいだったのかよ。」
「そうかも知れませんね。」
俺一人だけが熱くなっていく。
黒子は表情一つ変えずに静かに俺を見る。
それが余計に俺をイライラさせる。
「住む場所とかどうするんだ?」
「もう住む場所も決まっているので今から引っ越します。荷物はもうすぐ業者の方が取りに来るので。」
本当に黒子は一人で話を進めていく。
「誰がいいって言ったんだ。俺は認めねぇぞ。」
「認めてもらわなくてもいいです。もう決めたんで。」
まっすぐな瞳はずっと揺るがない。
…………あぁ、もう黒子は何を言っても出ていくのか。
なら、聞きたいことがある。
「なぁ、最後に一つ聞いてもいいか?」
「何ですか?」
「お前は今でも俺のことが好きか?」
「…………それは秘密です。」
「なんだよ、それ!!」
「代わりに一つ嘘を言います。僕はずっと火神くんのことを愛してました。」
「それどういう意味だよ!!」
胸ぐらを掴む。
「今まで何回も言ってくれた愛してるって言葉でさえ嘘だったのかよ。」
黒子はやはり表情一つ変えない。
静かにまっすぐに俺を見る。
「もういい。勝手にしろ。」
丁度その時引っ越し業者の人が来た。
「ちわーっす、如月運送です。」
「あっ、こっちの部屋の荷物の運び出しお願いします。」
「了解しました。」
俺はダイニングの椅子に座り、運ばれる荷物をボーッと眺めていた。
次々に運び出されていく荷物は見たくないのに何故か目を離せずにいた。
何分過ぎたのだろうか?
ほんの一瞬にも永遠にも感じられた、そんな荷物の運び出しが終わったらしい。
「じゃあ失礼しました。」
トラックが発車し、別れの時がきた。
「さようなら。火神くん。」
そう言って静かに黒子はこの家を去っていった。
世界からは色が消え、部屋がいつもより何倍も広く感じる。
「なんだよ、あいつ……」
《代わりに一つ嘘を言います。僕はずっと火神くんのことを愛してました。》
「俺のこと愛してなかったのかよ……」
頭の中に何回も同じ言葉がリピートされる。
黒子は俺に酷いことを言ってこの家を去っていった。
なのに……なのに、どうしてだろう。
黒子のことを嫌いになりきれてない俺がいる。
(ははっ……未練がまし……)
部屋のあちこちにあいつがいた証がある。
洗面所、台所、リビング……否、どこもかしこも。
ソファーの上を見ると一冊の小説が置いてあった。
これもあいつがいた証。
どんな本を読んでたんだと俺はその本の表紙を見る。
『恋人との別れ方』
無性にイライラして、俺はその本を床へ投げつけた。
床の上で無惨に広がる本。
「んでだよ……」
どうしてなんだ?
あいつがわからない。
バカみたいだよな……その気持ちを物にあてるなんて……
本を拾い上げるとふと開いたページの内容が目にはいった。
『なんで裕夜さんにそんなこと言ったのよ。』
『そんなこと? あぁ、周りから見たら酷く聞こえるわね。』
『どういうこと?』
『私は愛してたが反対とは言ってないわ。愛してたが嘘だと言ったのよ。』
『一緒じゃない!!』
『違うわ。愛してるを愛してたと言っても嘘になるでしょう。つまりはそう言うこと。未練がましいわよね。』
俺は黒子の言葉の真意がわかった気がした。
黒子がこの本の女性と同じことを考えてあの事を言っていたなら……
都合のいい解釈なのかも知れない。
でも、そう信じたかった。
「でも、なんで別れようなんて……」
もしまだ愛してくれているならどうして別れるのか?
もしかしたら何か手がかりになると思いその日一晩かけてその本を読むことにした。
話はスゴく複雑で俺には難しかった。
だけど、所々にスゴく気になる台詞があった。
『一緒にいては彼のためにならないから。』
『好きだけど……好きだからこと彼と別れないとダメなのよ。』
『今の私では裕夜さんの足枷になるだけだから。』
『でも、本当は今でも愛してる。』
あぁ、今すぐ会いに行きたい。
黒子に会いに行きたい。
俺の思ってることと違うかも知れないけど、それでも会いたい。
ただ何処にいるのかがわからない。
「どーすっかな……」
そんなときふと頭に浮かんだのは高校時代、よく寄り道をしていたマジバだった。
いるかいないかわからない。
けど、俺は僅かな可能性にかけて走り出した。
マシバの前に着いた。
現在9:30より少し前。
俺は入るか否か迷ったが、店の外にいては俺があいつに気付く前にあいつが俺に気付いて逃げるかもしれない。
思いきって店の中に入る。
見渡せば、窓際の席でバニラシェイクを啜っている水色が見えた。
俺はバーガーを頼みその席に向かう。
あいつは気づいていない。
俺はその席に座ってから声をかけた。
「相席いいよな?」
「…………えっ?」
大きく見開かれた水色の瞳が揺れる。
「何でここに?」
「ん?なんとなく。」
「…………僕、帰ります。」
「待てよ。」
そう言って袖を引っ張る。
「何ですか?」
「これ、お前のだろ?」
あの本を差し出した。
「『恋人との別れ方』」
明らかに動揺しているのがわかった。
そして、若葉色のその本を引ったくってきた。
「読んでませんよね?」
俺は首を横にふる。
「読んだんですか?と言うか読めたんですか?」
「失礼だなてめぇ。俺だって本ぐらい読めるっての。」
「それは知ってます。……絵本ぐらいなら読めると思ってましたから。」
「俺は幼稚園児か!!」
何となく空気が軽くなった。
「…………」
「…………」
少しの沈黙の後、先に口を開いたのは俺だった。
「お前さなんか勘違いしてねぇか?」
「えっ?」
「お前は重荷になんてなってねぇよ。」
「!?」
「それに《俺はずっとお前に側にいてほしいと思っている。例え茨の道を歩くことになってもな。》」
あの本に載っていた台詞。
本当は自分の言葉を紡ぎたかったがいかんせん日本語は不得意なままだしこの言葉は今の俺たちにぴったりだったから……。
ふと黒子を見ると瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。
「《分かりました。なら私は一生貴方の側で貴方に刺さる棘を抜きましょう。》」
そうして二人で微笑みあった。
「火神くん、ありがとうございます。」
「あぁ。」
「あの……」
「なんだ?」
「今日、戻ってもいいですか?」
「当たり前だ。」
「それと……」
「それと?」
「今日は、いっぱい愛してください。」
顔を真っ赤にしてそう伝えてくれた恋人はあまりにも可愛くて……
「当たり前だろ?これからもいっぱい愛してやるよ。」
白いその手にキスをした。
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こんなはずでは無かった\(^q^)/
シリアスって難しいですね……
ちなみに番外編と黒子視点も制作予定なんですけど……出来そうにない
・゜・(つД`)・゜・