黒バス-short-

□クロッカス
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俺達が入学してからもう三年がたった。

桜が咲くにはまだ肌寒くて……でも、確かに陽射しは暖かくなっていた。

「もう卒業だな。」

「そうだな。」

俺達は明日誠凛高校から飛び立っていく。

「早いな……」

「そうだな。」

「俺達が卒業してもバスケ部はやっていけるよな?」

「そうだな。」

「俺達もやっていけるよな。」

「そうだな。」

「おい、伊月!! さっきから『そうだな。』しか言ってねぇぞ。」

「あぁ、悪い。」

只今、午後10時を少し過ぎたくらい。

俺と伊月は缶コーヒーを片手に真っ暗な公園にいた。

他には誰もいない。

時々、公園の前の道路を車が通って行くだけだ。

「三年って長いようであっという間だったな。日向。」

「あぁ……でも、色々あったよな。」

そう、本当に色々あった。


俺は中学でバスケを辞めた。

頑張っても報われないことに失望していた。

そして、高校に入った時やりたいことを見付られなかった俺はグレた。

本当はまだバスケを諦めきれていなかった自分の気持ちには気付かないふりをしていた。

でも、俺は木吉に誘われてもう一度バスケを始めた。

その時、誠凛にはバスケ部がなくて俺達がバスケ部を創ったんだっけ。

日本一になることを目標にして。

その年は日本一になれなかったけど、次の年すげぇ後輩が二人も入ってきた。

IHでは全国に行くことすらできなくてそのあと後輩の二人……火神と黒子がすれ違ってたよな。

それでも必死に練習して、そんで必殺技を身に付けて、また必死に練習して。

俺達はその年のWCで優勝した。

次の年のIH、WCはさすがに優勝出来なかったが、それでもベスト4になれた。

沢山の後輩も入ってくれた。

思い出が昨日の事のように鮮明に思い出される。

「俺達、幸せな高校生活を過ごせたよな。」

「そうだな。大変だったこともあったけど幸せだったよな。」

「木吉と小金井と水戸部とリコと土田と火神と黒子と降旗と福田と河原と沢山の一年生と、んで伊月と2号もか。バスケ一緒に出来てこれ以上ねぇくらい幸せだ。」

「俺、犬と同格かよ。」

伊月が笑いながら俺につっこむ。

「黒子はだんだんと慣れたけど最後まで影は薄かったよな。」

「あぁ、でも見付けられるようになったよな。」

「火神は相変わらず敬語下手なままだったよな。」

「勉強は少しずつ出来るようになってたけどな。」

「降旗は相変わらず試合のたびに緊張してるよな。」

「でも安心して試合を任せられるようになったよな。」

「河原も福田も試合に出られるようになったよな。」

「あぁ、頑張ってるよな。」

ずっと側で見ていた二年生達は逞しくなっている。

精神も肉体も。

その成長を見れて幸せだった。

でも、

「あぁー!! 卒業したくねぇーっ!!」

「俺もだーっ!!」

これからもずっと見守りたかった。

だけど、俺達はそれぞれの道に進む。

「伊月もバスケ続けるんだよな。」

「あぁ、日向もだろ?」

「当たり前だ。」

プルタブを開け、コーヒーを飲む。

「……苦っ」

「……だな。」

涙が手に落ちる。

「日向……泣いてる?」

「……苦くて涙が出ているだけだ。」

「なんだよそれ。……俺もだけどさ。」

隣を見ると伊月も泣いていた。

きっと、俺と同じ気持ちなんだろう。

ふと、涙を手で拭き、伊月は言った。

「明日は堂々としていような。」

「ダァホ。当然だろ。卒業しても俺達は繋がっている。」

「そうだな。」

「ずーーっと繋がっているんだ。」

そう、繋がりが消えるわけではない。

きっと卒業しても互いに連絡を取り合うし、共に遊ぶこともあるだろう。

でも、クロッカスの花に満たされたような日々とはお別れだ。

まだ夜の風は涼しい。

だがきっと、明日は晴れるだろう。





クロッカス:花言葉は『青春の喜び』

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