モノズキナキミヘ

□ヤキモチ
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-ベッキョンside-


「ふふっ、お前は何処のうちの子だい?」
なんて普段のあいつからは想像もできないような優しい口調で猫という小さな獣に話しかけていた。口元緩みすぎ、アイドルなんだから表情管理くらいできないんですかね!まったく!

今日はkだけでの仕事だった。雑誌の撮影を終えた僕たちは特に寄り道をするでもなく、最近の忙しさから家に早く帰って休みたいと言う気持ちもあり自然と早歩きで歩いていた。撮影場所が宿舎の近くということもあり散歩がてらという意味も込めて車での送りをわざわざ断った。まぁ、早く休みたいってのと矛盾してね?ってツッコミはなしね。笑
…で、それがこの状況を招く結果となったのは言うまでもない。
特別なことがあったわけじゃない。たまたま帰り道に通った通りに不自然に大きな段ボールが落ちていた。メンバー全員で顔を合わせた後に中を覗き込めば「拾ってください」と書かれた小さな紙切れと同じく小さな獣が一匹…。
そんでもって案の定放っておけない僕を含めメンバーはその小さな獣を持って帰ることに。


宿舎に帰ってきてからというもの1番興味のなさそうだったチャニョルがベタ惚れ状態。他のメンバーといえばすでにもう飽きたのか何処かへ行ってしまったようでさっきから姿が見当たらない。


そのベタ惚れチャニョルは(何かこの言い方すると僕がチャニョルにベタ惚れみたいでムカつくけど…)ずっと獣に話しかけている。
もちろん返事なんて返ってくるはずもないのにその小さな獣がタイミング良く
「にゃー」
なんて鳴くもんだからチャニョルは
「そうかそうか」
って満足そうに笑顔を浮かべた。…何がそうかそうかだよ…ムカつくな。抱き抱えた獣の鼻に自分の鼻をスリスリとし出した。
…なんて言うか。見ててムカつく。さっきからムカついてばっかじゃんか。それもムカつく。ムカつくムカつくムカつく。
帰ってきてからというもの宿舎のソファに俯せで寝っ転がった僕はその"二匹"のやり取りを睨むようにずっと見ていた。
うん、自分でも自覚があるほどに。眉間の皺を伸ばすように指先で触るも相変わらず寄った皺は元には戻らず。たまらずソファに置かれたクッションへと顔を埋めれば
「…はぁ…」
と盛大なため息が出てきた。

…たぶんきっとこのモヤモヤとする気持ちは…おそらく…俗に言う…まぁ、あれなんだろう…けど認めない。断じて認めない。



暫くして息が苦しくなった僕は酸素を求めてクッションへと埋めた顔を横へと向けた。

「…うわッ…!!」

そこには僕の大好きで大っ嫌いで…けど、やっぱり大好きな顔が目の前にあった。膝を抱えるようにしてしゃがみ込んで同じ高さにあるそいつの視線と僕の視線が絡まった。いつの間にこっち来たんだよ。ムカつくな。ホントにムカつく。何がムカつくってこんな時でもこいつのことをかっこいいと思ってしまう自分自身に。
目を見開いて硬直している僕の姿を見れば
「…どしたの?」
なんて聞いてくるから反動的にまたクッションへと顔を埋めてしまった。たぶんきっと僕の顔は今ものすごく赤い。何で赤くなったかなんて知らないし知りたくもないし、わからないし、わかりたくもない。そんな顔こいつに見せたらなに言われかわかったもんじゃない。
そんなことを考えてたらふいに
「ベッキョナ…」
なんて普段じゃなかなか聞けない甘えを含んだ声色で耳元に囁かれた。
あいつの口から紡がれる言葉、吐かれた熱の篭った息が僕の耳を掠めれば、たったそれだけで背筋がぞくっとした。
と同時に自分の体全体が熱くなるのを瞬時に感じ取った。
ますます顔を上げずらくなった僕の頭にチャニョルの大きな手が触れた。そのまま優しく優しく僕の頭を撫でてくれるその動作が何だか気持ち良くて自然と目を細めてしまった。

「…ベッキョン。お願い。顔見せて。帰ってきてからベッキョンの顔ちゃんと見てない。」

「…そんなの知るか。お前があれと勝手に遊んでたからだろ…」

「…あれって…あぁ、もしかして拾って来た猫のこと?」

「……」

僕がうんともすんとも言わずにいると

「…もしかして構って欲しかったの?」
なんて言われた。

何だかその言い方が気に食わなくて両腕をソファにつき、上半身を反るようにあげバッと顔をそいつへと向ければ

「んっなわけねぇーだろ!!!」

っと不自然なほどに声が喚いた。
言ってしまってはもう後の祭り。ドンドン熱が上がり顔が赤くなっていくぷいっと顔を逸らした。するとあの大きくて優しくて僕の大好きな手が僕の頬を包み込んだ。
そんでもって
「…ベッキョン…」
なんてまたあの熱の篭った声で呼ぶもんだから自然と視線がそっちへと向いてしまった。

「…ごめんね。寂しかったんだよね」
って勝手にそんなことほざくからちげぇよって反論しようとしたらそいつのその暖かな唇で僕の言葉は塞がれた。
そのキス一つで全てを許してしまうのだから僕は相当なバカなのかもしれない。

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